60点で議論する勇気がみんなを救う。
私は事業計画を担当しています。
私の部署ではマクロ目線の計画を立てるチーム、ミクロ目線で活動するチームがいます。私は前者に所属しているわけですが、キャリアの半分は後者を担当していたため、両方の状況がわかる立場です。
いま、我々の事業は非常に調子が悪く、ビジネスの見直しやコストダウン活動を強力に進めようとしています。
今までのように、継続的に一定の水準でコストダウンを続けよう、というレベルのものではなく、3割コストダウンは当たり前、というレベルで見直す必要に迫られています。
もちろんビジネスはコストだけで決まるものではありませんが、古くから作っている製品はコモディティ化している領域もあり、今後どうしていくか、を議論すると同時に、目の前のコストをしっかり下げていく必要もあるわけです。
今までとは違う活動をしなければいけないが、かといってどこに課題があり、どこを目指せばいいかわからない。そんな状態で、社内の関係部署が悶々としています。
そんな時に、どこに着目して活動するか、どのくらいコストダウンするのか、といった活動の指針を出すのが我々事業計画チームの役割です。
もちろん、マクロな事業としてどのくらいの利益を稼がねばいけないのか、というものを示すのが、マクロ担当の私の役割で、それを受けて実際の現場でどこに切り込むのか、を考えるのがミクロ担当になるわけです。
そのミクロ担当はどの製品、どのラインでどう活動していくのか、アイデアを出すことが求められていますが、非常に難しいことで、担当者はものすごく悩んでいました。
実は、今まで現場をしっかり分析せずに、未来のシミュレーションばかりして仕事をしてきていたため、現場の課題を出そうにも仮説もたたなかったようです。
しかし、現場は待っています。事業計画チームが活動の指針を示すまで待っているのです。
でも、担当者が悩んでいるうちに2か月がたってしまいました。もう四半期が一つ過ぎようとしているのに、まだスタートできていないのです。
ここで現場の不満が爆発し、我々の部署の部長にクレームが入りました。
実は、ミクロ担当で悩んでいる担当者はまだ5年目の若手でした。組織上はその若手の上に中堅がいますし、課長もいます。しかし、課長のマネジメントが機能しておらず、完全に担当者を放置していたようです。中堅も自分の仕事でいっぱいいっぱいで担当者をケアできず。
完全に機能不全のチームになっていました。
そこで急に私が呼ばれ、「ミクロの仕事もしたことあるから肩代わりしてくれないか」と言われ、急遽支援に入ることになりました。
まずは、その担当者と話をして、「何に困っているのか?」と聞きました。
そうすると、「情報が足りなくて、目標の説明がどうしてもつかないんです。これでは説明できません」と言うわけです。
確かに、彼は経験も少ないですし、現場の分析もしてこなかったようなので、どこにどんな情報があるかわからない。そもそも、自分はどんな情報があれば仕事ができるのか、もイメージできていないこともわかりました。
これは完全にマネジメントの問題です。
そもそも、担当者がどうやってアウトプットを出すか、ゴールが理解できていないし、そのための道筋も作れていない。その中でもがいている。
これはマネジメントが事前にゴールのすり合わせや作戦を一緒に考え、合意せねばいけません。
ここはマネジメントが機能していないチームだったので、私がバックアップでこの部分を話すようにしました。
次に、担当者個人の問題があります。「情報が足りないから説明できない」というのは、100点を目指そうとして、微細なところにこだわってしまったということです。
確かに、少しでも完成度を上げようと思うことは重要かもしれません。
しかし、本当に完成度は上がるのでしょうか?
もっと言うと、何のための完成度でしょうか?
目的は、現場が活動するための切り口を提供することです。事業計画の人間が改善策をすべて出すことはあり得ないですし、それを期待されているわけではありません。
専門分野である、数字の分析を通じて、現場に切り込むべき場所を示唆することが目的です。
しかも、これから活動するわけですから、やってみないとわからないことがたくさんあります。
ですから、まずは第一歩を踏み出すための情報を提供し、動き出さねばいけません。
動き出すことが一番重要なのに、それを止めて100点を作ろうとするのは本末転倒です。
未来のことはわからない。だから、仮説ベースの60点で議論を仕掛ける。
不足している情報や新しい要望があれば、それから対応すればいい。
そこで不足を指摘されるのは、決して悪いことではありません。議論が進んだ、前進したということです。
自分が責められることが怖いのは若ければ若いほどそうだと思います。歳をとっても、今度はプライドが邪魔してやはり責められないように、と思ってしまいます。
しかし、ここはチームを動かすために、60点で議論を仕掛ける勇気を持つことで、前進することができます。
今回、悩んでいた担当者とは、「ここまでで持っていこう!」というレベルをしっかり伝え、後ろからバックアップしながら、60点でも進んでいくという成功体験を持ってもらえるようにしていこうと思っています。
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