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地蔵怒る

俺は寒村で暮らしている。この間、同じ村の娘を嫁に貰った。幼馴染でずっと俺の事を好きでいてくれたみたいだ。もちろん都会に行けばきっともっと素敵な男性はいるだろうに申し訳ない限りだ。

そして暮しも貧しいし、高地なので作物も良く育たない。商売っ気もなく手先も不器用な俺に対して、妻は良く尽くしてくれた。今年は特に酷い飢饉で正月の食材もほとんどない。だから俺は不器用ながらも笠を編み、村を降りて町に売りにでかけることにしたんだ。

不器用だけど一生懸命編み込んだ。貧しくても俺と一緒に居れて幸せだと、ずっと離れない妻を想えば少しでも美味しいものを拵えてやりたい。そんな想いで都会に行く俺に妻は自分の食べる量を抑えて大きなおむすびをつくってくれた。なんとしてでも売らないとな。

「あなた、外は寒いですから、お腹を空かして途中で倒れたら大変です。だから遠慮せずにもっていて、お腹が空いたら食べてくださいね。笠は売れるといいですね」

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なんて良い妻だ。貧しいけど俺は確かに幸せだった。しかし町についたけども、不器用な俺が編んだ笠はなかなか売れなかった。一日中歩き回ったのも失敗したかもしれない、途中立ち売りしていたら、縄張りがあるとかで怒られてしまったんだ。だけどそんな話は本編とは関係ない。

殆ど売れることなく日が暮れてしまい、最悪な事に雪も少しふりはじめて、早くも辺りは雪化粧を始めている。村までは2時間近く山を登らないといけない。雪が積もってしまえば、足場を取られて帰れないどころか町にも戻れなくなる危険性もある。さっさと帰ろう。そんな時にお腹が鳴った。

ぐぅ~~~~~~

そういえば何も食べていなかったな。大きなおむすびが1つある。これを食べる資格は俺にはないけども、食べないとさすがにこの寒空の下、村まではもたないかもしれない

『妻よ、ごめんな』

俺の帰りを期待して待ちわびてくれる妻を想い呟いた。おむすびを食べるには丁度いいサイズの岩があったので、そこに腰を下ろしておむすびを食べていると、丁度向かい側に6体のお地蔵様がいらっしゃったのがわかった。頭に雪が積もりはじめている。

『これは可愛そうだ』

どうせ売れなかった笠だし、せっかくだからお地蔵様に被せてあげよう。しかし、少しは売れたので4つしか笠がなく2つ足りない。でも、俺の被っている笠もあげれば足りないのは1体だけですむ。

1体のお地蔵様には申し訳ないけども、それでも自分の笠もかぶせて帰ればきっと許してもらえるだろう。笠は売れなかったけども、少し良いことをしたと思えると山を登る足取りは不思議と軽かった。もしかしたら妻に早く会いたかっただけかもしれないな。

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