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鶴ではない者の恩返し

お腹が空いた。極限状態に近い
何か食べ物をと思って鹿を追いかけていたら
何処か分からない森に迷いこんだ

もうだめだな動けそうにない
目の前に鳥たちが泉で水浴びをしている
あれは鶴かな?鶴って喰えるのかな
最後の力を振り絞って追いかけたが
人類でもフォルムのおかしな俺が
鳥類にかなうはずもなく
遂に力尽きて気絶した

もはや、ここで終わるのか・・・・

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しかし終わらなかった
気づけば俺はどこかの民家にいた
そして起きて周りをぼんやり見渡すと
見知らぬ男性がいた

男性は凄く優しい笑顔だった
その優しい笑顔があったので
何だか不思議と警戒はしなかった

「憶えているか?鶴子」
「俺だよ俺、ヨヒョウだよ」

ヨヒョウ?知らんな

「あの時は覗いてしまってごめんな」
「もう絶対覗いたりしないからな」


こいつは何をいっているのだろう?

俺を鶴子という人と勘違いしているのか?
俺は男だぞ?そんなことも分からないほど
何か心を壊すような出来事があったのかな?

その優しいまなざしには
どこか焦点が定まっていないような
狂気さもあるような気がするな。

『あだだだだ』

動こうとしたが俺の身体が悲鳴をあげた
そうだった。鹿を追っている最中に崖から
転落してほらこの通り、骨が折れたんだった

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何気ないけど結構な重症だから
完治には相当時間がかかるだろう
その期間の食糧はどうしようか
今助けてくれたこのヨヒョウがいつまで
好意的であるかわからないな

ただ、俺を鶴子と勘違いしているようだ
便乗しようかな?
恩を仇で返すことになるな

でも俺もたいがいだが
このヨヒョウもたいがいだ
なんだ鶴子って?

『もしかして・・記憶が少し戻るかも』
『ヨヒョウ・・・さ・・ん』


意識が飛びそうなふりをした
なるべく寝て時間を稼ごう

「もし俺があの時覗かなければ」
「ずっと俺たちは幸せでいれたかな」


目をつむりかけることで
膝部分が痛いから本当に気絶しそうなのだが
何の話だ?さっきから覗いた覗いたって
どこの家政婦ですかーーーー!

まてよ、鶴子ってそもそも女なのか?
俺のフォルムを見て女とは思わないよな?
もしかしたら蘇我馬子的なことか?
小野妹子は女子じゃねー!
鶴子を女子と思い込むのは
社会科を勉強しなかったアホに同じかこら

『私ってそんなに可愛い女なの?』
俺にすれば性別を確認するこの質問は
大分攻めたつもりだ。
だがこの質問はうまいんじゃないか?

「あーお前は可愛い鶴だよ」

答えになってねー!!
あだだだだだ!!
興奮すると折れた足が痛い
何だ鶴って?

わからない。全くわからん!

だがヨヒョウは手厚く看病してくれた
ところどころ意味不明な会話を繋いでいくと
大好きな女性がいたが
その女性が機を織るシーンを
見てしまったからその女性は
鶴に変身して逃げていったらしい

それからずっと寂しくて
心を病んでいたそうだ。

ここからは俺の勝手な感想だが
病み過ぎて心どころか頭もおかしくなり
俺を鶴子だと思っているみたいだ。

驚いた事に頭は悪い癖に狩の腕はいい
やれ鹿だ、やれイノシシだと
精のつく食材を提供してくれ
それも美味しく調理されている
俺はみるみる回復していった。

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