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仏教福祉 各論 6.大乗仏教の福祉思想

大乗仏教の成立は紀元前後とするのが妥当であるが詳しくはわかっていない。インドにおいても初期、中期、後期にわたる大乗仏教思想の展開があり、また北伝仏教の経路を考えた場合、インドからシルクロードを経て日本に至るまで、また鎌倉新仏教の各宗の成立という大乗仏教の伝播経路においてもさまざまな思想展開しており、内容を要約するのは困難である。

大乗仏教の理念を要約すれば『慈悲の精神』に立脚してすべての存在を苦から救済することを目的とし、自己の悟りの実現を目的とした修行の実践(自利行)のみではなく、自己の悟りの前にまず他者を救済するという『利他行』を強調しているとまとめられる。そして大乗仏教思想体現者が『菩薩』であるとされ、その実践が『菩薩行』とされている。

大乗仏教と福祉思想を考える時、注目されるのは『菩薩行』であり、菩薩行として有名なのは『六波羅蜜』である。波羅蜜は伝統的に煩悩にまみれたこの岸から悟りの彼岸にいたる方法、即ち、大乗仏教における根本的修行方法と理解されている。これを『六波羅蜜』と呼ぶ。六波羅蜜は次の6つ。

布施…他者への物質的援助、精神的働きかけをする

持戒…戒律を守ること

忍辱…苦難、困難を耐え忍ぶこと

精進…仏道において継続して努力、実践すること

禅定…心を集中、瞑想で精神統一すること

智慧…真理を見つめ人びとを悟りに導く力。前の5つを支える智慧

これら『智慧』を除く5項目の実践を通して人びとは悟りの彼岸に到達するとされるが、このうちでも『布施』と『持戒』の2つは他者への働きかけを含んでおり注目される。大乗仏教菩薩行の特徴である利他行の実践がこの2項目に述べられている。大乗仏教の福祉思想の源として重要な項目である。仏教者が大乗仏教菩薩行を歩むとき、その宗教的実践のひとつとして福祉的実践が含まれている。つまり大乗仏教は理論的理解に終わるものではなく現実の社会に対する具体的な働きかけを行っている。

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