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何をどう頑張れば良いのか分からない時

「どうした?なんか落ち込むことあった?」
「いやそれがまた上司に叱責を受けて、自分では頑張っているつもりなんですけどね。僕は出来ない人間なんで何やってもダメだから仕方ないですね。ハハッ・・・。」
 ダメだから仕方ないと言いつつも彼の表情を見る限りやっぱり寂しさが拭えないのだろう。確かに彼は会社の中で結果としては出せていないし、周りからは白い目で見られていることも多いけど、だからといって本当に無能な人だとは自分には思えない。それより努力する方向が分からないだけなのじゃないかな。
「まあ自分を否定することはやめようよ。別に俺はあなたが無能な社員だとは思っていないしさ。ただ何をどう頑張れば良いのかが分からないってことない?」
「そうなんです。よくよく考えれば何をどう頑張れば良いのか分かっていませんでした。いやずっとモヤモヤしていたのですけど、自分がどうすれば評価してもらえるのかさっぱり分からなかったです。」
 やっぱり思った通りだった。
「まず初めにこれだけは言っておきたいのだけど、誰かの評価だけを気にすることのはやめよう。それだと他人の評価が全てになって、その評価の上下によって全て自分を支配されるだろう。ちょっと評価が高まったら気分が上がって、ちょっと評価が下がったら落ち込んで。この繰り返しになるからあまり健全とは言えないと思うんだよ。」
「はあ・・・。」
「その上で俺は上司に直接どうしたら評価してくれるのか聞いてみたらどうかなって思うんだよ。直接どうしたら評価してくれるかって聞いたことある?」
「いやないです。ダメ出しはされますけど、それ以上は何も。」
「だから直接どうしたら評価が高まるのかを聞いてみれば一番分かり易いと思うのだけどどう?」
「確かに聞いて上手くいっていないのが現状なので直接聞いてみようかなと思うのですけど、なんか怖いんですよね。今頃何言っているんだよとか、そんなもの自分で考えろって一喝されそうで。」
「それだとしたら僕はその人は上司としてはあまり優秀だとは思えないけどな。だって部下が積極的にどうしたら良いですかと真剣な表情で聞きに来ているのに、考えもせずに自分で考えろってあなたが上司の立場なら言う?」
「いや言わないと思います。仮にその時に分からなかったとしたら一緒に考えようかと言うと思います。あとはそれについて詳しい人を紹介するとか。」
「そうだよな。ということはその上司は相手がどう頑張ったら結果としても上手くいくのか、その方向性が分からないってことだと思う。分かっていたら単純にそれを伝えてあげればいいのだから。」
 相手はそれでも自分に自信がないのか、気持ちを大きく出来ないのが見て分かる。
「じゃあまず自分で考えてみるのですけど、それでどうしても分からない場合は教えて下さいと自分なりの誠意を見せればどう?」
「そうですね。いつも聞いてばかりもいられませんから。」
「よく気付いた。そう、だからまずは自分で考えることもそれ以上に大事かもしれないね。」
 ようやく前向きな気持ちになってきたのか、表情が変わってきた気がする。この人も本当は頑張りたいんだ。周囲に認められてここでやりがいを感じたいんだ。
「はい。」
「それで分からない時に上司に聞いてもしっくり来ないのだったら、他の先輩とか話し掛け易い他のグループの上司に聞いてみたらどう?タイミングを見計らってさ。」
「タイミングですか?」
「例えばその人がふらっと飲み物を買いに行く時とかさ、休憩しに行く瞬間とかで1人になる時ってあると思うんだよ。その時に何気なく自分も休憩に行こうかと装って、タイミングを見計らうのだよ。そうしたらその時に聞きやすいだろ。ほら今だって給湯室で2人だから聞きやすかったと思うんだよ。だから同じようにすれば良いってこと。」
「なるほど。」
 性格が素直なのか、アドバイスをしたら受け取る土台はある。これは彼の長所だと思う。この素直な性格があれば助けてあげたいと思う。実際今僕が思うようなことを多くの人が感じるのではないだろうか。
「あとは先に直属の上司にもっと自分も頑張りたいから、他の人にもどうやって努力されてきたのか聞きたいのですってあらかじめ言っておいても良いと僕は思う。それで役に立ちたいのですって言えば上司としてもNoとは言えないでしょ。」
「そうですね。結局は自分にもメリットがあるわけですもんね。」
「そう。だから人それぞれ性格は違うとは思うのだけど、まずはそうやってみたらどう?」
 具体的に自分の行動が分かってきた。ようやく次に何をやれば良いか見つかった気がする。これが分からなかったから、今まで彷徨っていたんだ。
「本当ありがとうございます。ようやく気持ちが晴れた気がしました。」
「それなら良かった。でも最初に言ったことだけど、他人の評価だけを気にしていたら時々すごくメンタルが疲れるから気をつけて。昔の自分がそうだったからよく分かる。あとこれだけは覚えておいて、もし今後メンタルが病みそうになったら早めに僕に言って。」
「分かりました。」
 今後彼はどうなっていくのだろう。でも楽しみだな。なんか1つ楽しみが増えた気がする。


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