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覇気がない、元気がない人達へ
「覇気がないんだよ。そんなんじゃダメなことぐらい分かるだろ。」
こう言われたことは1度や2度じゃない。今までからずっとそうだった。学生の時も就職活動の時からも社会人になってからも。僕は普通にしているだけなのに、覇気はない、元気がないと年上の人、特に中年以上の人から言われる。
どうすればその覇気がある人に変わるんだろう。いつも元気良く挨拶していないといけない。いつも元気に返事をしないといけない。でも僕の性格を考えれば、それがどうしても出来ないんだ。
「あのう、どうすれば良いでしょうか?」
「はあ?そんなの自分で考えろよ。」
やっぱりいつも決まったようなパターンだ。
「あのな、みんな明るくしているだろ。まあなんだ、その猫を被ることだって必要なことだ。もう子供じゃないんだから。得意先に行って大人しくしていたら、話も盛り上がらないだろう。だから無理してでも猫を被るんだよ。そんなこと言わなくても分かるだろ。」
無理に自分を偽る、これが大人になるってことなのかな。装うこと、猫を被ること、それが大人として正しいことなのかな。みんな無理して自分を作ってる。それで疲れないのかな。僕にはちょっと出来そうにないや。
上司の言葉が僕を再び責める。
昼間に言われた言葉が僕を締め付ける。今横で歩いて帰っている人も会社では同じように自分を無理してでも作っているのかな。僕の前を歩いている女性も会社で無理して笑顔を振舞っているのかな。
社会との距離を感じる。僕は社会では馴染めない。
スマホが鳴る。得意先の人からだ。どうした、こんな時間に連絡があるなんて何かあったかな。急を要することなのかな。それならなんとかしてあげたい。
「もしもし。」
「遅くに電話して申し訳ないです。急ぎの用で連絡したのですが。」
話を聞くと発注の間違いがあったから、明日うちの生産部門にすぐに修正をかけて欲しいということだった。焦っている彼の気持ちを想像したら、朝に電話しても繋がらない可能性がある。その時電話してもすぐに対応してもらえるか分からないと不安になって電話してこられたのだろう。自分に置き換えて考えたら彼の気持ちが理解出来た。
「承知致しました。それでは工場の方には今から連絡を入れておきます。ただ確実にご希望に応えられるかは今ここでは伝えられないので、それだけはご了承下さい。ただお気持ちもすごく分かるので、出来る限りのことはさせて頂きます。それで明日の朝1番にも確認の電話を入れておきます。」
「やっぱりこちらの気持ちを分かってくれた。ありがとうございます。そうして頂けると本当に助かります。」
得意先の人との電話が終えるとすぐに生産の方に修正の電話をしておいた。小言を言われたけど、取り掛かる直前だったのでどうにか修正をすることが出来た。これで一安心だ。
念の為に明日それとなく確認しておこう。それで確認が取れたらもう1度得意先に電話して、発注数の修正が出来たことも報告しておこう。それで相手も安心して別の仕事に取り掛かれる。
昼間上司が言っていた覇気がない、元気がないように見えるのは事実だろう。今までも何度も言われたことだから自分でもそれは分かっている。覇気がない、それはもしかしたらデメリットかもしれない。でも僕はそこを無理矢理変えようとも思わない。
その代わり今のように相手のことを考えて動くことなら、それなりに出来る。僕はこっちの方で頑張っても良いんじゃないかと思う。不得意なことを頑張って変えていってもマイナスがせいぜい0になるだけ。
でも多少なりともプラスなことを伸ばしていけばどうだろう。そのちょっとしたプラスはより大きなプラスとなっていく。そうなれば誰がどう考えてもそっちの方が建設的だ。
人にはそれぞれ得意なことも不得意なこともある。それは僕もそうだし、さっきの得意先の人もそうだし、上司もそうだろう。不得意なことを努力することを否定する気はないけど、僕は得意なことをより得意に伸ばしていきたい。
「課長、昨日得意先から感謝されました。というのも一昨日の夜得意先から発注数が間違っていたから、至急修正してくれと言われたのですぐに生産の方に連絡して修正かけてもらったんです。」
「ほお。」
「それでどうにか取り掛かる前だったのでどうにか修正をかけることが出来たので、それを得意先の方にも連絡しました。担当の青木さんがすごく感謝してくれて、あなたに担当してもらって本当に助かっていると仰っていました。」
「それはすごいな。」
「だから課長が仰っていた覇気がないというのも分かります。僕は人当たりがあまり良くないですから。でもこうやって感謝されることもあります。僕はここの得意なところを伸ばしていこうと思います。」
「そうか、そこが君の長所だったのか。これはすまなかった。私も勉強になったよ。」
「ありがとうございます。ただ課長を責めるつもりはないですからね。」
相手を責めるつもりで言ったのではない。ただ自分が不得意としているところ、自分が合わないところを無理矢理直そうとは思わない、これだけを伝えたかった。
「分かっている。別に君に責められたとは思っていない。その得意なところで仕事をして欲しい。」
「はい。」
「実はね、その担当の青木さんから僕の方にも感謝の電話がかかってきてね。すごく誇らしくなったと同時に自分の至らなさを痛感したよ。それで次に何か依頼する時は真っ先にうちに連絡するとも言ってくれた。これは君の手柄だよ。」
「そうなんですか。それは知らなかった。」
彼もそれだけ好意的に捉えてくれたんだ。手柄はあまり気にしていないけど、やって本当に良かった。その気持ちが嬉しい。