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短編小説 バンドマンの夢
今日でこの街を去る。今日でお別れなんだ。たったの3年間、でもその中にはいろんな思い出が詰まっている。彼女が泊まりに来たこの部屋、一緒に行ったスーパー、友達と出掛けたパル商店街の古着屋。
僕にとっては青春と呼べる3年間、他の人からすれば遅過ぎる青春かもしれないけど、僕はこの3年間が生涯の宝物と言える時代になるんじゃないか。
バンドとバイトに明け暮れて、ずっと叫び続けてきた。地下のライブハウスの楽屋には僕が書いた落書きが今も残っている。
他のバンドで競い合った仲間がバンドを辞めて、この街から離れていく時はいつも本気になって怒っていた。去っていくことが寂しかったんだ。子供の頃両親から愛情を受けなかったから、人が離れていくことを極端に恐がる自分。
このまま一緒に売れていくんだと思っていた。もっといろんな人に知ってもらって自分達の曲が世間で流れる。そんな夢みたいなことを考えていた。
でも1人、2人と遠ざかっていく度に、自分だけは諦めないと固く誓っていた。今では諦める人間が悪いとは思わない。その人にはその人の人生があるのだから。何を大事にするか、どう生きたいは自分で決めること。僕は諦めずに何年、何十年という年月を必要としても叶えたかっただけ。日本武道館でライブをやるという夢を。
でも当時の若い僕にはそれが理解出来なかった。人それぞれの人生があり、自分の選択が大事なんということも。みんな家族だと思っていたから、商店街の一角で本気で殴り合ったり、一緒に泣いた。
僕は運が良かったんだ。あれから5年バンドが売れて、ついに日本武道館でライブをする夢が叶う。
ただ僕にとってこの時代は宝物。その頃の仲間は僕が悩んでいたり、もがいている時いつも助けてくれた。
お金も時間もなかったけど、それでも楽しかった。夢だけはあった。
今5年ぶりにこの地に来て思う。
お金や社会的な名前が大事なんかじゃない。自分が本心から幸せだと感じられるかどうか。あの日殴り合った時の夕日が、今日優しく僕を迎え入れてくれた気がした。
ここで大事なのが2つあります。
自分の夢や生き方は自分で決めるということ
夢を諦めないということ
夢と言ってもここで言う日本武道館みたいな分かり易い夢もそうですけど、自分が本心から幸せを感じる生き方を続ける、それだって夢だと思います。
その夢に向けて1歩ずつ生きていくていうのもすごく素敵なことだと思いませんか?僕はすごく素敵なことだと思います。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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