Galileo Galileiが創る世界を旅する
GalileoGalileiの歌詞は
旅をすることができる。
そう思えるほどの世界観が、このバンドにはあるのだ。
北海道の最北端にある稚内で生まれ育ち、ラジオ番組「SCHOOOL OF LOCK!」主催の10代限定のロックフェス「閃光ライオット」でグランプリを受賞したことで、多くの曲を世に送り出すことになったGalileoGalilei。
そのボーカルと作詞作曲を担当する
尾崎雄貴が創り上げる歌詞。
自分はそれが、ずっと大好きだった。
GalileoGalileiの音楽は、彼らの成長とともに目まぐるしく変化していった。
青春を感じさせるオルタナティブロックから始まり、様々な楽器を駆使したエレクトリカルな音を取り入れた時期を経て、海外バンドさながらのインディーロックサウンドを全面に押し出した楽曲を数多く生み出した。
ただ、さまざまな変化を受け入れながら、自分たちの音楽性を作り上げていたGalileoGalileiの中でも、ボーカルの尾崎さんが描く歌詞の言葉たちには、どこか普遍的なものがあるように思うのだ。
彼が描く歌詞の特徴と言えば、まるで絵本に出てくるかのような物語性のあるアンニュイな歌詞。誰にでも書けるようなものではなくて、天性のストーリーテラー。
今回は、そんな彼らが作り上げた「GalileoGalilei」の世界の中でも、特に自分の好きな『PORTAL』というアルバムから曲をいくつか紹介できればと思う。
imaginary Friends
アルバム『PORTAL』のトップバッターを飾るのが
「imaginary Friends」という楽曲。
このアルバムの世界観の始まりを告げるような、エレクトリカルなサウンドが特徴的な楽曲は、特に『PORTAL』という作品の方向性を決定づけている。
実は、尾崎さんはインタビューのなかで、『PORTAL』を”ひとつの街”として捉えていて、その街で起こる出来事を曲によって描いていると話していた。
実際、この曲でも街の雰囲気が感じられるような描写が多い。
照りつける太陽のもと角を曲がったり、川を下ったり。
そして、特に印象的なのは、終始「僕」が「君」に対して話しかけるように歌詞が綴られていること。
目を覚ました「君」を起こして、シダの葉と木漏れ日の道を走っていく。
まさに絵本に出てくるような情景描写が続くなか
サビへと突入すると、状況は一変する。
そう、1番の歌詞では「君」を街から連れ出して、見送るまでの光景が描かれているのだ。
君についていけるのはここまで。
だからここでさよならだ、と。
具体的にシーンが描かれているわけではないのに
こんなにも物悲しい気持ちにさせられる。
さらに、この曲の2番の歌詞では一人称が入れ替わり、「君」として描かれていた少女が「私」として、1番で走ってきた木漏れ日の道を戻って行く様子が綴られる。
街にいることを選んだ「僕」と、街を出て行った「私」
対照的な彼らの別れが、まるで童話のように綴じる。
ただ、忘れてはいけないのがこの曲のタイトル。
「imaginary Friends」というのは「空想の友人」という意味で、子どもの頃によく見られる「本人にしか認識できない空想上の友達を作り上げる」現象のことでもある。
それを踏まえると、何だか突然、霧に包まれたような不思議な感覚にさせられる。真実は尾崎さんにしか分からない。
老人と海
時折、子どもの笑い声をサンプリングするなど、ところどころ実験的な要素も加わった「老人と海」。
もちろん、かの有名なヘミングウェイの「老人と海」から取った作品タイトルではあるのだけど、ストーリーは全く持って異なる。
老人も海も登場はするけども、主人公となるのは父親と母親の喧嘩の最中、家を飛び出した「僕」と犬のジョン。
息が白くなるような雪降る街のなかを、両親が喧嘩する要因になった「I love you」を探しに行くために彷徨う。
まるで海外絵本の世界に飛び込んだかのような、雪の降る外国の小さな街で起こる小さな出来事が、この曲では繊細に綴られる。
そして、この歌詞にも見られるような独特な言葉の選び方も、尾崎さんの歌詞が好きな理由の一つでもある。
「3ドルぽっち」や「吹きガラスの瓶」という言葉の響きは、どこか日本ではない街にいる少年の姿を、聴いている人の脳裏に映し出す。
自然と物語の邪魔をしないように混ぜられた言葉たちが、物語をよりくっきりと浮かび上がらせているような気がするのだ。
それにしても「I love youが現れて」という歌詞は、尾崎さん以外にはきっと書けないだろうな。彼の頭の中では、どんな世界が広がっているんだろうか。
さよならフロンティア
軽快なテンポで刻まれる「さよならフロンティア」という曲は、ドラマ「荒川アンダーザブリッジ」の主題歌としても起用された。
この曲で主に自分が好きなのが
同じ「言葉」を異なる文脈で登場させていること。
少し謎めいた1番のサビの歌詞なのだけど、このシーンで登場する言葉には、その後も登場する言葉がいくつかある。
そのなかでも印象的なのが、「玩具の銃」と「箱に押し込めた」という二つの言葉。
同じ言葉であるはずのなのに、登場するごとに少しづつ意味合いが変わっていき、新たなストーリーを生み出していく。
最後のサビでは、これまで紡がれた言葉たちが綺麗に連なり、まるで、前半の歌詞と対比されているかのように歌われている。
「玩具の銃」を捨てて、これまで「箱に押し込めて」追いやっていた明日や嘘を、決して手放さないように胸にしまう。
それまでに描かれた歌詞にポツンと置かれていた「言葉」の積み重ねがあるからこそ、この曲の最後に深い余韻を落とすことができるのかもしれない。
星を落とす
幻想的な音楽から紡がれる抒情的な歌詞が
特徴的な楽曲「星を落とす」。
どこか投げやりで「もうどうにでもなってしまえ」という気持ちが垣間見える歌詞ではあるのだけど、この曲にはとても印象に残るフレーズがある。
何と言っても、言葉の対比からなるギャップが素晴らしいのだ。
自分は、行間や背景を想像できるような、多くを語らない歌詞が好きだ。
この歌詞に登場する「僕」にとって聴こえてくる
全く対象的な二つの音。
光が強ければ強いほど影が濃くなるように、この「素晴らしい音楽」という言葉に続くからこそ「涙の落ちる音」という言葉が、これでもかと聴いている者の胸に強く刻まれる。
まるで一枚の絵が目の前に広がるように、君が泣いてる姿を見たくない「僕」の悲痛な面持ちと、星が降り注ぐ街の惨状が、頭の中に綺麗なイメージとなって浮かんでくる。
たった二行で、ここまで感情を揺さぶることができる。
それは、誰にでもできることではないと思うのだ。
青い栞
最後に紹介するのは、GalileoGalileiの中でも屈指の人気を誇る「青い栞」。アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」のOPとしても知られる。
爽やかなサウンドとボーカルの尾崎さんの歌声が心地よくマッチしたこの曲は、アニメのあらすじと合わさるように、歌詞にもどこか切ない風情が漂っている。
この曲の好きなポイントであるのが
歌詞に出てくる言葉の統一性。
この「青い栞」で登場する言葉たちは、どれも「初夏の思い出」を想起させるような印象を抱かせる。
海、サイダー、ミサンガ、押し花の栞、使い捨ての自転車、忘れかけの煉瓦……。
決して無理に使っているわけではなくて、物語に添うように自然と並べられている言葉たち。言うなればドラマの小道具のような、そこにあるべくして使われた語句であるような気がするのだ。
情景が広がって、背景のストーリーがうっすらと透けて見える。続きを見てみたいような、知らなくてもいいような、曖昧な気持ち。
そんな歌詞の世界観を作れる人が自分は大好きで、だからこそ、尾崎さんの歌詞にこれほどまでに魅了されるのかもしれない。
最後に
好きな歌詞にも色々あって、言葉の響きや一行の歌詞の破壊力に心を打たれるような曲も数多くある。
でも、Galileo Galileiの歌詞は、他の歌詞が好きな理由とは少し異なっている気がするのだ。
一行の歌詞というよりは、作品全体のストーリー性や世界観、そして、その物語に沿って彩られる言葉たちが、何の違和感もなく自然と溶け込んでいる。
彼らの曲を聴いていると、その曲の舞台となる場所を鮮明にイメージできる。
木漏れ日あふれる道、雪降る外国の街並み、泣いている少女と星降る夜、自転車で海が見える坂を駆けのぼっていく少年たち。
手の届く場所にあるような、視界のどこかに歌詞が浮かんでいるような、そんな気分にさせられる。
ここに紹介しきれなかった彼らの素晴らしい楽曲はたくさんある。残念ながら「Galileo Galilei」はすでに解散してしまったけど、今は「BBHF」として新たに活動していて、そちらの楽曲も彼ららしい世界観を纏っている。
是非とも「Galileo Galilei」の曲を聴いて
彼らが創る世界を存分に旅してみて欲しい。
走るメロスにだって、会えるかもしれないから。