音楽で彩る、秋の短いエッセイ|スピッツ「楓」
秋の音楽はほかの季節にくらべて、ひっそりと静かな曲が多い気がする。
春の浮かれた陽気が漂うサウンドや、夏のお祭り感もなければ、冬みたいにクリスマスや年末のイベントにちなんだ楽曲があるわけでもない。
それでも秋には、あの肌寒い風が吹き寄せる季節だから、涼しげな空気にあてられながら歩いていく夜だから聴きたくなる、静かで寂しげな「秋」の曲がたくさんある。
自分にとって、そんな「秋」の季節に
ふと聴きたくなる曲が、スピッツの「楓」。
一聴しただけで、どうしようもない別れを連想させる楽曲は、今でも多くのアーティストによってカバーされるなど、スピッツの言わずと知れた名曲として世代を問わず愛されている。
そんな「楓」の歌詞で綴られるのは、忘れようにも忘れられない儚い別れの記憶。
ひとつひとつの言葉だけで、何でもない日常が何より大切だったと伝わってくるのに、すべてが過去形で表現されている切なさに何度も胸を締めつけられる。
そして、サビでこだまする〈さよなら 君の声を抱いて歩いていく〉という歌詞は、ボーカルである草野マサムネさんの歌声にのせられて、ふたりの戻らない時間が心の奥にいっそう静かに響いていく。
寂しくて悲しいのに、なぜだか前を向いていたくなるのは、スピッツが奏でる優しい音楽と、草野マサムネさんの伸びやかな歌声のおかげかもしれない。
個人的に〈かわるがわるのぞいた穴から 何をみてたかなぁ?〉という部分に、スピッツの愛らしさが詰まっている気がして、「楓」のなかでも特に好きな歌詞のワンフレーズ。
「秋」を連想させる言葉は歌詞のどこにも出てこないけれど、この「楓」という楽曲は、まぎれもなく「秋」の静けさと寂しさを帯びていて、葉っぱがほんのりと色づいていく景色が頭のなかを流れていく。
ただ、実際のところ、どの季節に聴いてもめっちゃ良い曲に変わりはないので、本格的な秋がくる前に、涙が溢れても構わない場所で聴いてほしい。