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「オッドタクシー」を見て改めて思った「群像劇」の魅力
ついさっき「オッドタクシー」と言うアニメシリーズを見終えた。
正直、シリーズ物を見る忍耐力が近年皆無に等しいため、久しぶりにアニメシリーズを見始めたということもあり、最期まで根気強く見てられるかと心配していた。
しかし、そんな心配も杞憂に終わり、続きが気になって仕方ないことこの上なく、最期まであっという間に完走してしまった。
そんな「オッドタクシー」のあらすじを
簡単に紹介してみる
主人公となるのは、タクシー運転手の小戸川。
皮肉屋で偏屈。どこか捻くれているセイウチの見た目をした彼は、いつものようにお客さんを乗せて、目的地へと送り届ける。
乗ってくるお客さんも多種多様。
ネットでバズって人気者になりたい大学生。
アイドルオタクのキャバクラのボーイ。
好意を寄せてくる看護師。
売れない芸人コンビ。
動物の見た目をした彼らは、様々な思惑を抱えながらタクシーに乗る。そんな彼らに対しても、小戸川はいつものように冷めた対応をする。
しかし、一つの事件を中心にに、様々な人物の考えが交錯し、やがて小戸川もその渦に巻き込まれていく。
◇
そんな「オッドタクシー」という作品。
最近、SNSで話題となっているのをちょくちょく目にして、久しぶりにアニメでも見てみようかと思い立ち、この週末の楽しみにしていたのだ。
という事で、本当にぶっ続けで見てた。
止めどころが分からんかった。
まぁとにかく面白かったのだ。不思議な世界観も、小気味いい会話も、登場人物たちの個性あふれるキャラクターも全てツボだった。
ちなみに好きなキャラは大門弟。
素直な阿呆には、どの作品でも癒されている。
◇
そんなこの物語は
いわゆる「群像劇」の一種に分類される。
そして、この物語を見終わって
改めて「群像劇」の魅力を再確認したのだった。
「群像劇」とは
おそらく知らない人もいると思うので、「群像劇」とは何かを最初に説明しておくと
主人公にスポットを当てて、それを取り巻く人々を描くような一人称視点で展開していく物語ではなく、登場人物一人ひとりにスポットを当て、集団が巻き起こすドラマをそれぞれの視点から描くスタイルのことを「群像劇」と言う。
つまり、「オッドタクシー」を例に挙げるならば、さっきタクシー運転手の小戸川が主人公だと紹介したのだけど、厳密に言うなら、この物語に登場する「全ての登場人物」が主人公に該当する。
多くの人物の視点が絡み合い、最初は全く関係ないと思っていた出来事や、点と点に過ぎなかった物事が一本の線で繋がっていく。
自分にとって「群像劇」と聞いて真っ先に思い当たるのがテレビアニメ化もされた人気シリーズ「デュラララ!!」だ。
池袋を舞台に巻き起こるカラーギャングとの闘争や、「首無しライダー」と呼ばれる人物の都市伝説を巡り、様々な人々を巻き込んで、街は混沌へと落ちていく、成田良悟の長編シリーズ。
個人的には同作者の「バッカーノ!」も好きなのだけど、この「デュラララ!!」を始めて見た時に、自分は「群像劇」の面白さを知ったのだった。
他にも、伊坂幸太郎さんが描く「ラッシュライフ」や「グラスホッパー」、ついこの間まで放送されていて記憶にも新しいドラマ「コントが始まる」など、今も様々な「群像劇」が世へと放たれている。
一つの物事を中心に繰り広げられるドタバタ劇
群像劇の魅力の一つとして挙げられるのが、多くの人物を巻き込んで引き起こされる集団でのドタバタ劇。
多くの人物が絡み合うことによって、それぞれの行動が思わぬ結果を生み、やがて壮大なドラマに繋がる。
そして「群像劇」作品に共通するのが、大きな一つの事象を軸に登場人物たちが騒動を繰り広げるという点。
「オッドタクシー」なら、とある女子高生の失踪。
「デュラララ!!」なら「首無しライダー」の都市伝説。
多くの登場人物たちは、物語に君臨する一つの大きな事象を中心に渦を巻くように、そして引き寄せられるように集結していく。
それまで関係ないと思っていた出来事でも、物語が進んでいくにつれて実は見えないところで関わりあっていたり、それぞれの突飛な行動がドミノ倒しのように連鎖して、最終的に一つの出来事に収束する。
複雑な人間模様が絡み合う「群像劇」は一見すると分かりにくく、頭がこんがらがりそうになる人もいるかもしれない。
しかし、最終的にこれまでの謎が綺麗に解きほぐされた時の鳥肌が立つような感覚は、どのジャンルにも引けを取らないほどの爽快感を生み出すのだ。
登場人物たちごとの視点
そして、何といっても「群像劇」の最大の魅力と言えるのが、様々な登場人物たちの視点から描かれる「物語の多面性」だと言えるかもしれない。
「群像劇」と呼ばれる作品は、普通の作品と比べると圧倒的に登場するキャラクターの数が多い。
そのため、一人称視点では描ききれない登場人物たちの心情や行動原理が「群像劇」ではつぶさに描かれる。
普通の作品ではいわゆる「脇役」や「サブキャラクター」として描かれがちな登場人物たちが、どのような事を思って行動に移したのか。
そんな心情描写を彼らの視点から体感することで、登場人物一人ひとりの行動に視聴者はより共感を覚える。
現実においても
一つの物事を見て思う感じ方や意見は、それこそ十人十色で異なる。
その、どれもが間違いではないし、正解とも言えない。
なぜなら、その意見の背景には、そう考えるに至った経験や知識、積み重ねがあり、それは人によって全く異なるからだ。
一つの事象を様々な人物の視点から、様々な角度から見ることで
物語を一面ではなく、多面的に楽しむことが出来る。
個人的に「群像劇」という手法は、まるで登場人物一人ひとりが巨大パズルのピースを当てはめていくような、完成形が見えないモンタージュを創り上げるような、そんな登場人物たちの共同作業によって作り上げられる物語だと思っている。
だからこそ、彼らは敵対しようとも、全員が協力せずとも、誰も彼も嫌いになれないし、大きな謎に対して視聴者含めて立ち向かっているような、そんな一体感を抱くのかもしれない。
最後に
そんなこんなで「群像劇」の魅力を色々と紹介したのだけど、やはり「伏線回収」と呼ばれる、これまで何の気なしに見過ごしていた出来事が繋がった時の衝撃も「群像劇」の醍醐味だと言える。
その点、先ほど紹介した「オッドタクシー」は、緻密に練り上げられたストーリーが綺麗に伏線を回収して、最後に物語が終結する。
まさに「群像劇」の王道のような設定。
ただ、そんなストーリーの他にも、登場人物たちの皮肉めいた会話や、くすっと笑ってしまうような言葉遣いなど、「オッドタクシー」には多くの魅力が詰まっている。
多くの個性豊かな登場人物が登場するからこそ
視聴者も好きなキャラクターはバラバラだろう。
ただ、それも「群像劇」の楽しみ方に他ならないと思うのだ。
ということで、ネタバレをしないように恐る恐るここまで紹介してきたのだけども、できることなら「オッドタクシー」を見た方と「長々と語り合いたいなぁ」と思うぐらい魅力的な作品だった。
ていうか「セトウツミ」の作者の方が脚本なのね。
そりゃ好きだわ。