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回転寿司チャレンジャー
お寿司を好きで良かった。
回転寿司チェーンに行くと、毎回そう思う。
こんなにまで楽しみながら、美味しいものを食べられる機会は他にそうそうない。
回転寿司とは、大人でいながらも童心に立ち返って、子どもたちと同じ土俵に立ちながら食事ができる、画期的な食事形式なのだ。
ちなみに、今のところ現代でこれが出来るのは
回転寿司と流しそうめんだけである。
しかも、流しそうめんがそうめんオンリーしか流れてこないのに対して、回転寿司はなんでもござれ。
マグロやサーモンなどの老若男女問わず大人気のネタから、寿司を名乗っていいのか定かではないものまで、古今東西のありとあらゆる食べ物が流れてくる。
実際、寿司以外の皿も頻繁に視界に入る。寿司という枠組みを取り締まる何者かが居なくなった10年前あたりから、あのレーンは無法地帯となったのだ。
ケーキが流れてこようが、パフェが流れてこようが、誰も気にも留めない。茹だるような夏の日でもマスクを着けているのが当たり前の日常に慣れてしまったのと同じで、感覚が麻痺している。
◇
そんな群雄割拠の時代へと突入した回転寿司界においても、いわゆる定番ものと呼ばれる寿司たちがいる。
例えばマグロやサーモン、エビなどがそう。
これらのネタは王道のようなもので、千と千尋の神隠しで「どのキャラが好き?」と聞かれて、ハクと答える人の割合と大差ないぐらい、多くの人の好物にあたる。
しかし、自分が好きなのは、定番ものではなく
行くたびに移り変わる「変わり種」のネタなのだ。
昨今、普通に目にするようになった炙りサーモンチーズやエビアボカドのように、もとはと言えば「変わり種」のネタだったものも含めて、どこか奇をてらった寿司に手が伸びてしまう。
マグロやサーモンをさしおいて芽ねぎやまぐたく軍艦を選ぶし、千と千尋の神隠しで「一番好きなキャラは?」と聞かれたら「釜じいです」と胸を張って答える。
自分は要するに、天邪鬼な人間なのかもしれない。
もちろん変わり種のネタを手に取るのにも理由はいろいろあるのだけど、とりあえずここでは「変わり種」に対して躊躇いもせずに挑戦していく人々のことを「回転寿司チャレンジャー」と呼ぶ。
そう、自分も「回転寿司チャレンジャー」の称号を持つ一人なのだ。
◇
まず第一に「変わり種」というのは
回転寿司において無くてはならない存在だ。
寿司という概念がこの世にあり続ける限り、一生無くならないであろう定番ネタたちは、いつ手に取っても間違いなく美味しい。
しかし、同じ商品ばかりでは飽きが来てしまうのも、また事実。
そんな時に変わり種のネタと言うのは、一種のマンネリ化を防ぐために、必要不可欠な要素なのだ。
中にはもちろん「深夜3時から企画会議をしたのか」と訝しんでしまいたくなる商品もあるが、あのレーンに悠然と流れている以上は、専門の人たちが知恵を結集して開発したものなのだ。
10人中10人が美味しいとは言えなくても
必ず好きな人がいる。
そういった、一か八かのスリルを味わうことが出来るのが「回転寿司チャレンジャー」の醍醐味とも言える。
まるで「箱の中身は何だろう」ゲームのように、挑戦してみないことには美味しいかどうかも分からないし、結果、お気に入りのネタに出会えた時の感動は何事にも代えがたい。
チャレンジの積み重ねが感動を大きくするのだ。
いや、ちょっと壮大に言い過ぎたかもしれん。
◇
そして、忘れてはいけないのがサイドメニューの存在。
「寿司食べに来てるのにラーメン食ってる人の気持ちが分からない」という人の意見も分かる。ぐうの音も出ん。
ただ、今じゃ数えられない程の種類があるサイドメニューのクオリティを侮ってはいけない。寿司界の伏兵として、いつ何時でも定番ネタたちの牙城を崩さんと、虎視眈々と睨みを利かせているのだから。
ちなみに、特に自分が好きなのが、くら寿司の「とうもろこしのかき揚げ」とスシローの「かぼちゃの天ぷら」
何で寿司を扱っている店で食べる揚げ物が、あんなに美味しいんだろうか不思議でならない。寿司屋の皮を被った天ぷら屋なのかもしれない。
もはや隣のコンビニとかで売り出して欲しい。
からあげくんの横とかでスタンバって欲しい。
あと全然関係ないけど、めんつゆが0円で売ってるの何かシュールだよね。天ぷらとセットでつけてくれて良いんだよ。店員さんに頼むの、なんか恥ずかしいからさ。
◇
この他にも、ポテトフライやうどん、スイーツ類なんかも取り揃えている回転寿司。もはやライバルはファミリーレストランだと言えるかもしれない。打倒ガスト。
ただ、こうやって豊富なメニューを体験して「もうお腹いっぱい」となったところで原点に立ち返って食べる、マグロやサーモンも最高に美味しい。
「様々な場所に移り住んできたけど、結局地元が一番落ち着く」と言わんばかりの説得力を感じる。
まぁ何が言いたいかと言うと、定番の寿司はもちろん嫌いではない。
長年愛されてきた彼らの実力は、間違いなく本物だ。
しかし、変わり種のネタというのもまた、食べてみるまで何が飛び出てくるか分からない、びっくり箱のような魅力を持っている。
つまり、二つが共存している今の回転寿司は
とても絶妙なバランスで成り立っている訳である。
ただ、そんな回転寿司界においても、自分はこれからも「回転寿司チャレンジャー」としての称号を欲しいままにしていきたいと思っている。
チャレンジ精神を忘れないためにも。
まだ見ぬ美味しさを秘めている
「変わり種」を追い求めるためにも。
いや、お腹空いたな。ちょっと寿司食べてこよ。