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かき氷を食べに海へ行ったら、そこには灯台があった

海を見にいくついでに、かき氷を食べようと思った。
いや、むしろかき氷を食べたくて、海を見にいったとも言える。

今年は体感としても夏を感じることがあまりなかった。花火大会にも行かず、プールにも入らず、辛うじて夏と言えるのは、毎週やってくる迷惑極まりない台風だけ。

せっかくなら、セットで夏を楽しめるものがいいなと思って。
そうなったら「海」「かき氷」なんて、何の文句もつけようがないくらい夏だ。

それに、海辺で食べるかき氷がいちばんおいしいって、大人になってもなお信じているから。

目指したのは千葉県にある銚子。
理由はほどよく遠くて、小旅行感があるから。

東京からJRを乗り継いで、千葉を横断していく。峠を越えたり、田畑を抜けたり、想像以上に千葉県は広いことを実感する。

少しづつ乗客が減っていく車両で、ガタンゴトンと揺られながらようやく辿りついた銚子駅。

ローカル鉄道にしかない空気感ってある。

駅のホームから直結しているので、そのままローカル鉄道である「銚子電鉄」に乗りこむ。マットな質感のグリーンの車体がトレードマークで、写真を撮っている人もちらほらと。

座席に座ってぼけっと外の風景を眺めていると、車掌さんから「どこまで行きますか?」と声をかけられる。どうやら、電車に乗ってから行き先を告げて券を購入するシステムらしい。

よもや「かき氷を食べに海を見にいきたいんです」とは言いだせず、焦ってグダグダとGoogleマップを広げ、いちばん海に近そうな「犬吠駅」を指さして「ここにいきたいです」と告げた。

ちなみに、声に出せなかったのは、読み方が合ってるのか自信がなかったから。どうやら「犬吠(いぬぼう)」と読むらしい。ちゃんと自信の無さを裏づける結果だった。

その後、中間地点を過ぎたあたりで、本当は銚子駅周辺で昼ごはんを食べてから海に向かおうと考えたことを思いだす。銚子電鉄がすぐそこにあったから、流れるように乗りこんで、すっかり忘れていた。

海が近いのだから海鮮を食べずに何を食べるんだと、意気揚々とお腹を空かしてきたのに。こうなったら犬吠駅に美味しい海鮮のお店があることを祈るしかない。

そんなわけで、銚子電鉄名物の「緑のトンネル」を潜っている間も、あたふたとYouTubeやGoogleマップという文明の利器を頼りに、海鮮丼のお店を探す。

あまりにも夢中で探していると、あっという間に電車は目的地の犬吠駅へ。

駅に着くいなや、肥料のむせ返るような匂いが襲いかかってくる。慣れている人はどうってことないのかもしれないけれど、あたりいったい強烈に醸していた。

ただ、そんな農地の匂いよりも、ド派手なピンクの内装と、犬吠駅の文字よりデカデカと書かれた「岩下の新生姜」に驚きを隠せない。

ここまでされると、さすがに興味をもってしまう。
社長もしてやったりだろうな。

ちなみに、電車のなかで必死に探しあてた海鮮系のお寿司屋さんは、諸事情で店が閉まっていた。日頃の行いのせいなのか、それとも今年の夏が暑すぎるせいで「もうやってらんねぇ」と思ったんだろうか。

しょうがないので、のろのろと海を目指す。最近の荒天にも負けじと快晴の空が広がるなか、仲良しの二人組のおじいさんや、子どもを連れたお父さん、カメラを携えたおばあさまが、ひとつの目的地に向かって歩いていく。

犬吠の岬には、なんと灯台があった。

電車で犬吠について調べているとき、そこでようやく、犬吠には灯台があることに気づいた。

そう言えば、灯台って登ったことない。海鮮はあとで探せばいいか。多分、港町の海鮮の店はどこだって美味しいはず。海鮮は逃げないし、灯台はここにしかないのだから向かわなければ損だ。

今思うと灯台こそ、どこにも逃げるわけないのだけど、近くに見える灯台の存在感は絶大で、まずはあのてっぺんまで登っておきたくなった。

灯台の内部は螺旋階段になっていて、人ひとり通れるかどうかかくらいの道幅を、行き来する人とすれ違いながら、いそいそと登っていく。

そうして展望台まで出て、目に飛びこんできた景色。

犬吠埼灯台からの風景。階段は99段あるらしい。

写真だとあまり伝わらないけれど、展望台には恐ろしいほどの強風が吹いていた。まるで潮風を丸ごと叩きつけられているような気分を味わいながら、なんとか展望台を一周する。

海を一望していると、本当にはるか遠くから波が押し寄せていることがわかる。当たり前と言われれば当たり前だけど、それだけのことが、何だかとても特別なことのように感じる。

昔の人はこの場所で、荒れ狂う海にいる船に合図を出していた。
360°ぐるりと見渡せるこの場所は、きっと特別な場所だったんだろう。

そんな感慨深い気持ちを心に刻んで、一段一段、また来た道を降りていく。登るのは言わずもがな、降りるのも一苦労。

すぐ後ろを降りていたおばあさまと世間話をしながら、何とか地上まで降りたった。脚の張りを気にする自分を尻目に、おばあさまはピンピンとして次の展示場所へと向かっていった。

こっちはひと段落したので、やっと食事にありつけると売店に入る。
運動をしたあとに食べるのだから、余計においしいはずだ。

手に携えていたのは、それはそれはかき氷。

だって約束してしまったから。
海辺でかき氷を食べるのだと、昨日の自分に。

海鮮をめいいっぱい頬張る前に、律儀に誓いを果たすべく、売店で売っている400円のかき氷を買った。味はブルーハワイ。理由はいちばん夏を感じられるから。

びっくりするほど昔ながらのかき氷は、突きぬけるような日差しの暑さをいくぶんか和らげてくれる。もちろん、ほとんど何も食べてないので、お腹が満たされることは絶対にないのだけれど。

ただ、それでも、海風に吹かれながら口に入れるブルーハワイ味のかき氷は、おしゃれなカフェで食べる贅沢なかき氷よりも、どんな茹だるような暑さよりも、自分が求めていた夏を運んできてくれた。

理想の夏に、灯台までついてくるなんて。
それこそ、贅沢な話。

ちなみに、銚子駅に戻って、ちゃんと海鮮丼も食べた。
17時まで営業してるお店があって、本当によかった。

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