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くゆり
2020年9月4日 01:43
ある高名な画家が死んだ。晩年の個展では、作品が完成年別、古い順に並べられた。廊下の最後は星系の洞に落とされた羚羊を描いた作品だった。水彩で描かれた宇宙は、足元が揺れ動くような色彩で中央の生き物の強い眼差しは私をそこに釘付けにさせた。多くの人が足を止め、同じ数の人が素通りしていった。私は閉館するまでその絵を眺めた。なぜ画家はあの作品を最後に描いたのか。私には少しだけ分かってしまうような
2020年9月4日 03:14
静謐に隠された夜のガラス植物園は妖精達の格好の遊び場となっていた。彼らにとっての祝祭の日の夜のこと。見知らぬ一人の人間が植物園にやってきた。管理人のカンディリ爺さん以外の人間を真夜中の園で見かけたことが無かった妖精達は慌てて、隠れてその人間の様子を朱ガラスのゼラニウムの陰から伺った。人間は爺さんが気に入っていた黒いベンチに座ると月の光を吸い込んだ花木達に呟いた。「お祖父様は亡くなったわ。私はカン