偏光
静謐に隠された夜のガラス植物園は妖精達の格好の遊び場となっていた。彼らにとっての祝祭の日の夜のこと。見知らぬ一人の人間が植物園にやってきた。管理人のカンディリ爺さん以外の人間を真夜中の園で見かけたことが無かった妖精達は慌てて、隠れてその人間の様子を朱ガラスのゼラニウムの陰から伺った。人間は爺さんが気に入っていた黒いベンチに座ると月の光を吸い込んだ花木達に呟いた。
「お祖父様は亡くなったわ。私はカンディリの孫。お祖父様から夜のガラス園には妖精たちが現れると昔から聴いていたわ。兄弟達はこの園を王様に売ってしまおうと言うけれど、私が管理を引き受けたわ。本当に妖精がいるなんて信じてないけど一応、挨拶くらいは。ね。」
妖精達は静かに耳を傾けていた。聴きたいことがたくさんあった。どこからやってきたのか、こんな真夜中にどうして、何よりお爺さんは穏やかに亡くなったのか。妖精達は花の香りの中、衝動をこらえた。
「私はここが好きなのよ。」
深呼吸してから優しくそう言うと園を一周して彼女は帰って行った。
妖精達は祝祭の灯を透明な花車に灯していた。
ーーーーーーーーーー
テーマ: 植物園