アフロ民藝の作り手
「アフロ民藝」の作り手、シアスター・ゲイツさん(1973~)の日本初の個展が2024年9月1日(日)まで森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階)で開かれているのを、5月8日(水)に鑑賞した。
米ミシシッピー州とシカゴにルーツを持つアフリカ系アメリカ人のゲイツさんが日本に出会うことで生まれたコンセプト「アフロ民藝」。
アメリカ公民権運動の一翼を担った「ブラック・イズ・ビューティフル」と日本の民藝運動の哲学とが融合した独自の哲学とみられている。
ゲイツさん自身は次のように語る。「私にとって民藝の物語は1960年代、70年代、80年代アメリカでの「ブラック・イズ・ビューティフル」活動のような文化的抵抗の物語と重ね合わせられます」。
「民藝と「ブラック・イズ・ビューティフル」活動はともに植民地主義的ヘゲモニー(覇権)への抵抗としてサブカルチャーを称えるための重要な考え方を教えてくれるのです」。
ゲイツさんは大学で陶芸を学んだ際の指導教授が日本の常滑で作陶したことから、その縁もあってゲイツさんは2004年に常滑に来た。
「日本で学んだのは、朝鮮陶磁の影響を受けて発展した民藝のスタイルでした。釉薬のかけ方も溶け方も自由で、形は完璧ではなくどこか歪んでいる。人間の手の跡を感じさせるものです・・・不完全なものに美を見出す哲学が私の陶芸を変えていったと思います」(「GQ」2024年5月号:発売プレジデント社)。
「日本の陶芸には、秀吉の朝鮮出兵の際に多くの朝鮮の陶工を日本に連れ帰ったことがきっかけで各地にやきものが発展したという歴史があります。その史実に私も含めたアフロ・アメリカンのルーツを重ね合わせました」。
「日本の陶芸のルーツに思いを馳せる時、そこにもブルースがあると感じたのです」。
音楽もゲイツさんの活動において大切な要素である。
次のインスタレーション作品もそうだ。
ハモンドオルガンB-3は、1930年代からパイプオルガンの代わりとして米国の黒人教会やゴスペル音楽で広く使われてきた楽器。
ブラック・ライブラリー&ブラック・スペースという展示空間がある。
ゲイツさんは黒人の文化的空間や関連する品々を過去15年間にわたって蒐集し管理してきた。神道や自然崇拝に影響を受けたゲイツさんは、解体後などに遺された大量の物品を用いて作品にしたり、広く公開したりして、その人の生涯や関わった人々の社会的貢献を明らかにしようとした。
コンセプチュアルな平面作品も手がけている。例えば、古い消防ホースを縫い合わせてキャンパスに貼った作品で、公民権運動の際に警察が平和的デモを行う黒人らに対して放水した史実を彷彿させる。
ゲイツが拠点とするシカゴのサウスサイド地区はアフリカ系アメリカ人が多く住み、かつては貧困、暴力、ドラッグなど問題が多く治安が悪いエリアだった。ゲイツは2006年頃から空き家再生プロジェクトに着手した。今展ではこれら都市再生の試みをパネルで紹介している。
次は取り壊された小学校の床を用いた作品だ。
そして陶芸作品たちだ。
タール・ペインティング作品を作るゲイツさん。彼の父親は屋根を防水するためにタールを塗る職人だった。低賃金労働者だった。
「貧乏徳利」が並ぶ。明治から昭和初期にかけて酒屋で少量買いする客に貸し出し用として使われていた。
開館時間は午前10時から午後10時まで(火曜日のみ午後5時まで)。入館は閉館30分前まで。会期中無休。
入館は事前予約制(日時指定券)。
入館料は平日、一般(窓口)2000円、(オンライン)1800円、土日・休は一般(窓口)2200円、(オンライン)2000円。
平日、高大生は平日(窓口)1400円、(オンライン)1300円、土日休は(窓口)1500円、(オンライン)1400円。
子ども(中学生以下)は無料。
シニア(65歳以上)は平日(窓口)1700円、(オンライン)1500円、土日休(窓口)1900円、(オンライン)1700円。
問い合わせは℡050-5541-8600(ハローダイヤル)まで。