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カネミ油症の真実
今から57年前の1968年、西日本一帯でPCB(ポリ塩化ビフェニール)やダイオキシンといった毒物が混入した米ぬか油(カネミライスオイル)によって起こった「カネミ油症」食中毒事件。
カネミオイルを口にした者が体中に吹き出物が出るなどの健康被害を訴えた。現在でも認定患者は2377人。そして未認定患者は、患者の子どもや孫を含めて、それをはるかに上回る人数がいるという。
カネミオイルを口にした本人だけでなく子どもや孫にまで症状が起きており、親よりも深刻なケースも少なくない。国による解決を未だ見ていない。
2025年2月8日(土)、ドキュメンタリー映画「母と子の絆~カネミ油症の真実」(2024年/85分/稲塚秀孝監督/制作:タキオンジャパン)が文京区民ホールで上映されたのを観た。
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この映画は昨年8月に完成し同10月から全国で上映している。稲塚監督はなぜ今この映画を撮ったのかを話した。
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「今、カネミ油症事件を知っている人が少ないからです。薬学部の学生220名に映画を観てもらってアンケートを取ったところ、90%以上の人が知らなかったと答えました。医学部の学生さんも同じ結果でした」。
若い人たちに大学や高校でカネミ油症について知ってもらうためにこの映画の35分のダイジェスト版を作ろうと考えているという。
カネミ油症患者の子どもが深刻な症状に苦しんでいるが、成長した子どもからは原因物質が十分に出ないという。そのため「へその緒を調べてもらうことを突破口にしたい。保存状態に問題があるという人もいますが、しっかりと数値には残されています」と稲塚監督は話す。
カネミオイルを食べた女性(母体)から胎盤を通して胎児へ毒性物質が移行することが証明されているからへその緒を調べようということだ。また、最近では男性の精子を通しての子どもへの影響も指摘されている。
また、稲塚監督はいう「1968年にカネミ油症が起きた時、「国が向かい合う問題だったはずだが、なぜか九州大学病院が対応に乗り出して自分たちで判断基準を定めてそこから患者認定の問題が生じた」。
「国が向き合わなかったことでカネミ倉庫という一会社に責任が押し付けられたのです。これは水俣病のチッソと同じ構図です」。
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国の対応を見ると水俣病とカネミ油症は地続きに見える。
稲塚監督によると、熊本県は水俣病へは当初、食品衛生法に基づいて対応しようとしたが、厚生省(国)が同法の適用対象から外して、民間企業であるチッソに対応を丸投げしたのは、その後のカネミ油症における対応に引き継がれ、今度はカネミ倉庫に丸投げされた。
「カネミ油症への対応で九州大学がイニシアチブを取ったのはおそらくは厚生省も知ってのことだったのでしょう」と稲塚監督。
医者や研究者の倫理が問われる場面もあった。
カネミ油症問題を追いかけている市民環境研究者・藤原寿和さんはいう「(水俣病)患者の認定は秘密会議で決定されるのですが、漏れてきた情報によると会議の中で”これ以上認定を増やしてしまうとチッソが潰れてしまう」という発言があったそうなんです」。
「ある意味、医者や研究者は水俣病に加担してきたといえます」。
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海外ではカネミ油症同様の事案に対して違った対応が見られるという。
藤原さんによると、78~79年に台湾の台中で油症事件が起きたのですが、すぐに救済法が出来て、それに基づき患者を認定するのでなく2つ以上の症状が認められれば登録されることになったという。そして子どもや孫も自動的に登録されているそうだ。
1987年3月には最高裁での原告、PCBを生産したカネカの和解成立を受けて、原告は最高裁に国への訴訟を取り下げ、数か月後、国は最高裁に原告の訴訟取り下げに同意して民事裁判が終結した。
すべての裁判が終結した後も問題が解決したわけでなく、カネミ油症患者総合対策推進法の成立には2012年まで待たねばならなかった。
この救済法では、年1回の健康調査に協力すれば認定患者には国とカネミ倉庫から年24万円が支給され、油症に関連する医療費は無料。
だが、この救済法だけでは不充分との声は強い。血中濃度だけに重きを置く認定基準や、患者の子どもや孫に油症の症状が出ているにも関わらず認定されていないなどの問題がある。
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今後の上映スケジュールは:3月2日(日)午後2時より(文京区民センター2A会議室)、4月15日(火)午後2時より(文京区民センター3C会議室)、いずれも上映後に稲塚監督のトークあり。
(冒頭の写真:カネミライスオイルの一斗缶と一升瓶(映画「母と子の絆」より)