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ロシアの日本攻撃リストに原発
英フィナンシャル・タイムズ(FT)は昨年12月31日に「ロシア軍が日本や韓国の原発など計160ヵ所の攻撃リストを作成していた」と報じた。
そのリストには13の原子力施設が載っており、茨城県東海(村)の複数の原子力施設もリストアップされている。
日本原子力発電の東海第二原発で大きな事故が発生した場合、東京をはじめとする首都圏を含む30キロ圏内が影響を受けるとされているなど、もし万が一原発が攻撃されたらその影響は広範囲に及ぶことは間違いない。
現在、戦火にあるウクライナでは原発がロシアによる直接的な攻撃の対象になりかねない危険な事態が続いている。
翻ってここ日本の原発の多くは日本海側に立地しており、なにせ政府が敵視している北朝鮮や中国やロシアは海を隔てているものの距離的に近く、従来から原発への攻撃が懸念されてきたところだ。
稼働中以外のものも含めて、日本海側には柏崎刈羽原発(新潟県)、志賀原発(石川県)、美浜原発(福井県)、敦賀原発(同)、高浜原発(島根県)、大飯原発(同)、島根原発(同)がある。
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日本もテロ対策に関して手をこまねいていたわけではない。対策強化などが取られて来た。その結果の一つとして、最近では柏崎刈羽原発の再稼働申請を原子力規制委員会が慎重に審査をしてテロ対策が不備であるとしてなかなか了承しないことがあった。
昨年12月24日、東京電力のテロ対策の改善状況を評価する東電の第三者委員会「核セキュリティ専門家評価委員会」は柏崎刈羽原発のテロ対策の改善に関し「良いサイクルで回っている」と「自画自賛」していた。
しかし、2日後に会見した東電の稲垣武之所長は慎重な姿勢だった。「テロ対策上の手続きをまだ浸透しきれていない」と述べ、今後も対策の徹底が必要だという考えを稲垣所長は示していた(NHK 新潟NEWS WEB)。
一方、島根原発2号機のテロ対策施設の設置計画について松江市は昨年12月23日、松江市は立地自治体として事前了解する意向を同社に伝えた。テロ対策施設は立地自治体である島根県、松江市の事前了解に加え、周辺自治体の意見を聞く必要がある。
今回のFT報道によって日本政府および各原発におけるテロ対策が総点検を迫られることは必至の状況となったと思う。
以前から原発立地自治体や周辺では原発への攻撃リスクを懸念する声が小さくなく、さらなる原発反対の高まりも予想されよう。
原発を止めた裁判長からの警告
原発を止めた裁判長として知られる樋口英明さんは近著「保守のための原発入門」(岩波書店)でこう書いている。
「原発問題の本質が国防問題であることは、ロシアのウクライナ侵攻を機にますます明らかになった。多くの日本人は原子炉に砲弾が当たらない限り過酷事故にならないと思っているが、砲弾が電気施設に当たって原子炉を冷やし続けることができなくなっても、使用済み核燃料プールに当たっても過酷事故になる」。
「我が国の国土は全世界の陸地面積の約0.3パーセントにしかすぎないが、そこに世界の全原発の約10パーセントに及ぶ50基余の原発が、海岸沿いに林立している」。
「国防と称して敵基地攻撃能力の必要性を説く自称保守政治家たちは、彼らの主張に強く反対し平和を叫ぶ人たちを、現実を見ていない「お花畑」だと揶揄するが、現実を見ていないお花畑はむしろ自称保守政治家の方である。彼らは、仮想敵国やテロリストが我が国の原発を攻撃目標とすることはないというテロリストたちに対する強い信頼を持っているようである」と強烈に皮肉っていた。
日本政府の原発に対するテロ対策
ちなみに政府はどのような対策をとっているのか。
日本政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は福島原発事故後、2011年11月に「原子力発電所 等に対するテロの未然防止対策の強化について」を決定し、、防護措置 および内部脅威対策の強化を行うこととした。
日本原子力文化財団のホームぺージによると、「故意の航空機衝突などのテロを想定し、大規模な損壊で広範囲に設備が使えない事態でも原子炉を安全に停止する対策」がとられているという。
「そのために、原子炉格納容器への注水機能や電源設備、通信連絡設備などに加え、さらなるバックアップとして可搬型設備」が備えられ、「これらの設備を制御する緊急時制御室を備えた既存の中央制御室を代替する特定重大事故等対処施設が設置」されているとしている。
また、原発では「海水冷却ポンプなど屋外にある重要な設備に強固な障壁を設け、その周囲にフェンスや侵入検知器を設置する対策や、重要な区域での常時監視として2人以上で行うとする対策などのほか、作業員の身元を確認する制度が実施されている」とする。
さらには福島原発事故を教訓に、「非常用の電源設備や冷却設備を互いに離れた別の場所に分散して配置」することで「テロによる安全設備の一斉破壊を防ぐこと」につながるという。
そして、「全国17カ所すべての原子力発電所を対象に巡視船を配備して警備が実施されている」としている。
原子力規制委員会では?
原子力規制委員会は福島原発事故を受けて策定した新規制基準で、テロ攻撃を受けた際に放射性物質の放出抑制などを行う「特定重大事故等対処施設」の設置を義務付けている。
同委員会のホームぺージによると、テロリストに対する侵入防止や早期検知するための防護措置は、IAEA(国際原子力機関)の核物質防護に関する勧告文書等に準拠 し、多層に区域強化を設定し、フェンス、センサー、監視カメラなどの設置や警備員による巡視、出入管理を実施 。
また「サイバーセキュリティ対策として、外部からのアクセスを遮断する」とし、「テロ事案が発生した場合に対処するため、警察と海上保安庁が警備、警戒を実施」しているという。
IAEAの原発へのテロ対策7つの柱
IAEAではウクライナにおける戦火の拡大を受けて2022年3月、グロッシー事務局長は原発のテロ対策に関する7つの柱を示した。
①原子炉、燃料プール、放射性廃棄物貯蔵・処理施設にかかわらず、原子力施設の物理的一体性の維持。
②原子力安全と核セキュリティに関係するすべてのシステムと装備の常時完全な機能の必要性。
③原子力安全と核セキュリティに関して、不当な圧力なく職員が決定する能力を保持すること。
④サイト外からの電力供給を確保すること。
⑤サイトへの、およびサイトからの物流のサプライチェーン網および輸送を確保すること。
⑥サイト内外の放射線監視システムおよび緊急事態への準備・対応措置。
⑦規制当局とサイトとの間での信頼できるコミュニケーションの維持ステムと装備の常時完全な機能の必要性。