歌人・馬場あき子
「歌を詠み能を愛して八十余年 強くて明晰でしかもチャーミング こんな風に生きられたなら・・・」。
ベテラン歌人をおよそ1年間追いかけたドキュメンタリー映画『歌人 馬場あき子の日々 幾春かけて老いゆかん』が上映されている。
馬場は歌壇の第一人者で、90代半ばの今も朝日歌壇の選者を務めるとともに、自らも歌を送り出し続けている現役だ。
能についても造詣が深い。喜多流能楽師に師事し、自ら能を舞うとともに、新作能の制作も行い、能楽評論にも健筆をふるってきた。
新宿K's cinemaで上映中。6月9日にUPLINK京都、同10日に大阪十三の第七藝術劇場、同16日にUPLINK吉祥寺、同24日に名古屋のシネマスコーレ、7月15日に川崎市アートセンターで公開される。
馬場の93歳から94歳にかけての1年を見つめた。訪ねたのは冬だった。馬場が長年選者を務めている朝日新聞の「朝日歌壇」の選者たちが集まって歌を選んできたが、コロナ禍でそれぞれが行っていた。机の上にハガキが2千通以上積み上げられ、一瞬で良否を見極めていく。
馬場が主宰する短歌結社「かりんの会」も、対面交流が難しくなって、毎月発行している「かりん」の編集会議は馬場の自宅で、オンラインでの開催となった。パソコンに向かって意見を放つ馬場。
能への興味も尽きることない。毎月、3回から4回は能楽堂に足を運び、観能を楽しんできた。馬場は自分でも新作能を書きおろしている。そのひとつ「利休」の上演が迫り、準備に追われている。
歌の創作を含め、エッセイ執筆などの様子は撮影不可と言い続けてきた馬場が、初めて原稿に向かう姿を見せてくれた。歌詠みの初心についてつづった言葉には、こんな思いが込められている。 歳を重ねることは完成への道ではない 巡り来る春ごとに、あらたな心で歌に向かえ・・・と。
馬場あき子は昭和3年生まれ。現在の日本女子大学卒業。教員生活を経て、歌人でもある夫の岩田正とともに「かりん」を創刊・主宰。1953年、第五歌集「桜花伝承」で第二回現代短歌女流賞受賞。
評論に「鬼の研究」などがある。
令和元年、文化功労者に選ばれた。
映画は監督が田代裕。語りは國村隼。音楽は渡辺俊幸。制作・配給・宣伝はヒッチハイク。公式サイトはhttp://www.ikuharu-movie.com/。
田代監督は、ザ・ノンフィクション「マリアのニューヨーク」でATPドキュメンタリ―最優秀賞、ノンフィクション「映画で国境を越える日」で放送文化賞、BS-TBS「通信簿の少女」で文化庁芸術祭優秀賞などを受賞。
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