スーパーマーケットでフィールドワーク ~沖縄 Jimmy's~
旅行に出た際、その地元のスーパーマーケットに寄るのが好きでして。
例えば年末の長崎ではお正月に向けて紅白の定番の蒲鉾から鮮やかな緑やピンクで渦巻く蒲鉾、昆布や玉子などで巻かれたものなどの多種多様な練り物が一角を占め、秋の大分では刺身パックに太刀魚が入り、奄美大島では大きなシャコ貝の貝殻が鎮座。
そういった地元で親しまれている食材を見て買って食べるのもよし。場所によって味や風味に違いが出る醤油や味噌、お出汁の特徴を探るのもよし。なかなか東京ではお目にかかれない地元産のお酒、飲み物、お菓子だってある。中には、定番のお土産商品を扱っているお店もあり、スーパーマーケットで用足りてしまうこともある。
スーパーマーケットは、派手さはないかもしれないけど、地元の食卓をうかがい知れる特産品を手に入れることができる、見栄のない手軽なフィールドワークの場なんです。
お正月用の練り物が並ぶ長崎のスーパー。まだまだこれはほんの一角。
2月。
沖縄に行くことになり、どこに立ち寄ろうかあれこれ調べているうちに、異彩を放って目を引いたのが、Jimmy’s(ジミー)というスーパーマーケット。オレンジがかったレンガに覆われ、どこからどう見てもアメリカンな店構え。オレンジをバックに白抜きで丸みを帯びた文字に花が咲いたロゴがかわいい。ケーキやグロサリーが充実した地元から愛されるローカルスーパーマーケットと聞いては、見過ごせない。
ということで、宜野湾に出たついでにJimmy’sの1号店である大山店に行ってみました。
沖縄本島を縦断するようにのびていく国道58号線を那覇から北へ40分ほど走らせると、普天間基地にほど近い大山の町に入る。
Jimmy’sの第1号店がある大山の辺りは、ヴィンテージ家具が揃うファニチャーストリートをはじめ、米軍払い下げの家具などの品を扱う店が集まっている。また、付近の飲食店では大きく英字を付けたメニューを出すところが多々あり、アメリカンな雰囲気が漂う。
Jimmy’s大山店は国道58号線とその裏にあるパイプライン通りに挟まれ、車で行くのにとても便利。
店内に入りまず目に飛び込んできたのは、カラフルな風船とうず高く積み上げられたクッキーの箱。大きさもディスプレイの様子もいかにもお土産ですという顔をしたクッキーの箱たちだが、よく見ると表には英語が並んでいる。こちらはAMERICAN TASTE COOKIES。こちらのはSUPER COOKIES。さらにはTROPICAL COOKIES。とにかく具沢山で無骨なクッキーたちは、見るからにアメリカン。後で調べたところによると、こうしたJimmy’sのクッキーは、沖縄では贈答品として用いられることがあるらしい。他にもフルーツケーキやパウンドケーキなどの焼き菓子が並んでいる。
風船の近くにはアップルパイがホールでどーんと置いてある。
焼きたてあつあつ。
箱に入ったものもある。アップルパイ、ブルーベリーパイ、ウィンザーケーキ、……
バレリーナのような繊細さではなく、家庭的な安心感が漂っている。
チョコレートスポンジにバタークリームを挟み、上にはココナッツフィリングが乗っかったアメリカの定番ケーキ、ジャーマンケーキもJimmy’sの名物らしい。
気にはなるけど、残念ながら一人ではワンホール食いはさすがにできないな……。
総菜コーナーには、豚足を煮込んだてびちがあれば、ドイツの家庭料理アイスバインも。パウチになったクリームスープがあれば、中身汁も。お寿司だってある。沖縄、本土、アメリカ、ヨーロッパ、……和洋折衷幅広いラインナップによだれが出てくる。
ちぎりパンなど懐かしくなるようなラインナップのベーカリーも、泡盛を中心に多彩な酒類が並ぶ棚も充実。
左手には生鮮食品やレトルト、生活用品を扱うグロサリーが。
いかにもキャンディーの匂いがしそうなシャワージェルや、汗を抑えるだけでなく甘い匂いもつきそうなデオトラント剤、品の良い花柄の包装紙に包まれたイタリアの石鹸やアンティーク缶に入ったフランスの石鹸、種類豊富なキャンベルのスープ缶に紛れてブラジルの豆料理フェイジョアーダが詰まった缶詰もあり、ここはどこだかわからなくなってくる。
ホールもピースも揃ったケーキが整然と並んだウィンドウでは、おじさんが店員さんに向かって、バフェ(ビュッフェ)はまだ開かないのか聞いていた。
ここはアイランドグリル大山というバイキング形式のレストランが併設されており、Jimmy’sの味が食べ放題。また、カフェもあり、気軽にお茶もできる。
店内をひとしきり巡り、朝食用に温野菜サラダとアイスバインとベニイモクルクル(紅芋のペーストを織り込み渦巻き状にしたパン)、自宅で食べるお土産用にJimmy’sマッシュルームスープ、どうしても気になったフェイジョアーダ、珊瑚焙煎コーヒークッキー、玄米をすり潰した沖縄のソウルフードともいえるドリンク黒糖玄米、レトルトパックに入ったてびちを購入。好奇心に突き動かされて買いすぎた。反省はしていない。
宿泊した部屋には簡易キッチンがあり、お皿に温野菜サラダとアイスバインを並べてレンチン、ベニイモクルクルをフライパンで焼いて、後はコーヒーを淹れたら、立派な朝ごはんの出来上がり。
なんとアイスバインの美味しいこと……。てびちやラフテーの技術をうまく使っているのか、とろんとろん。それでいて本格的なお味付け。ねっとりとした脂身部分は、温野菜と合わせて食べてさっぱり。
他のも食べてみたくなるくらい、お惣菜のクオリティが高い……。
ホテルのバイキング朝食も旅行の醍醐味だけど、こういう自分の好きな物をちょうどいい量食べられる柔軟なスタイルができるキッチン付きの部屋もありがたい。
今回購入したJimmy’sオリジナルのものもそれ以外のものもどれも美味しかったけど、とりわけ珊瑚焙煎コーヒークッキーは出会えて良かった。
店内で主張の強いクッキーの箱が山積みになる中、隅の方で肩身狭そうにひっそりと佇む茶袋。他のものはでかでかと英語でその名が書かれているのに、こちらは明朝体らしきフォントで縦書き。とても地味な風貌ながら刀を構えたように背筋をのばし矜持を感じさせる珊瑚焙煎コーヒークッキーの文字に好感を持った。
そういえば沖縄土産で35 COFFEE(スリーファイブコーヒー)というのを耳にする。熱した白化珊瑚で珈琲豆を焙煎し、売上の3.5%は珊瑚再生活動に用いられるという。それと関係はあるのかしら……と思いながら購入することに。
これが美味しいんだ。
10円玉と同じくらいのサイズだろうか。小粒で薄く、ガリリと固め。クッキーを噛んだ瞬間、珈琲の香りが突き抜けていく。よくよく見ると、細かく挽かれた珈琲豆が入っている。口にも若干残ったその欠片は、小粒でもしっかりとした香り。ブラウンシュガーとナッツだろうか、ジンジャーブレッドを思い出させる味が、珈琲の香りをアシストする。香りと味のインパクトが強いから、ずっと食べ続けるよりも数枚を大切に食べたい。そして、食べきるのがもったいない。
お土産としてよく買われるのは箱に入ったクッキーの方だろうけど、健気で力強いこの子にもぜひ目を向けてみてほしい。
Jimmy’sという店名は、創業者・稲嶺盛保氏は米軍基地で働いていた頃の愛称から。戦後まもなく物がない時代に彼らの生活水準の高さを目の当たりにした稲嶺盛保氏は、アメリカの豊かな食文化を沖縄の人々にも届けたいとの思いを抱くように。そこから研鑽を重ね、1956年、店内でパンを焼いて提供するジミーグロセリーをスタート。本土復帰やオイルショックなど時代のうねりに翻弄されながらも、ハワイ、オーストラリア、ヨーロッパ、本土など各方面の味を研究。世界各国からシェフやパティシエを招き、様々な味や製法を取り入れてきた。そして地元・大山の名産である田芋やモーウイをはじめ沖縄食材も活用。
そう、ここは欧米、本土、そして沖縄、様々な地域の要素を取り入れ美味を目指す、いわばチャンプルーのようなお店。
多様な文化が融合し築き上げられた沖縄のチャンプルー文化が詰まった、とても沖縄らしいお店と言えるでしょう。
Jimmy’sはネット通販もあり。珊瑚焙煎コーヒークッキーなどのクッキー、焼き菓子、ケーキ、スープなどがネット通販で買えます。
ああ、ケーキのホール買いしちゃいそう。
Jimmy’sはとてもユニークで研究熱心な、一見アメリカンだけど実に沖縄らしいスーパーマーケットでした。家の近くにあったら絶対楽しい。