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「サンクコストの罠」〜三菱ジェット、1兆円空回り〜

昨日の日経新聞1面トップに続いて、同じく本日の日経3面にも三菱重工が航空機事業の事実上の凍結が報じられています。
記事を読む限り、「感染症」という「言い訳」ができたから決断できたものの、典型的な「サンクコストの罠」だと感じました。
その背景には、サラリーマン経営者の問題、失敗を悪いとするカルチャー、などがあると思ったのでメモ。


1、またの名を「コンコルド効果」

「サンクコスト(埋没費用)効果」、「サンクコストバイアス」とは、

これまで散々資金や時間を投資してきたのだから、今やめてしまうのはもったいない、という理由だけで勝つ見込みが薄くなっている事業やプロジェクトに投資を続けてしまうこと

を言います。

「コンコルド効果」とも呼ばれることがありますが、これは、あの超音速旅客機コンコルド(もうご存知ない方も多いかもしれませんので写真載せておきます)が、開発中から、燃費が悪く、機体もスリムにせざるを得ないため搭乗できる乗客も少なく、事業の採算性が早いうちから懸念されていたにもかかわらず開発を続行し、出来上がってはみたものの、案の定、採算が悪く事業は失敗した、という事例です。

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もし、採算性に問題があることが分かった時点で開発をストップしていれば、損失は小さかったのに、「今やめてしまうのはもったいない」と進めた結果、もっと損失が膨らんだ、ということ、これが「サンクコストの罠」、です。

今回は航空機なので、「コンコルド効果」の方が合っているかもしれませんね。


2、なぜ「分かっているのにやめられない」のか?

いろいろな要因があると思います。

☑️ もったいない
☑️ 間違いを認めたくない
☑️ 少ないが可能性はまだある
☑️ 過剰なプライドや自信

プライベートなら分かります(映画館で見始めて「つまんねー」と思っても映画代払っちゃたからもったいないから最後まで見てしまう、とか…)。

でも、大企業の経営者まで上り詰めた人たちが、なぜこの罠にかかってしまうのか?

三菱重工だけではありません。

同じく1兆円規模の損失を出した東芝の米原子力事業会社のWH買収(債務超過になることから虎の子のメモリー事業を分離売却することに)も同様な例でしょう。単にWHを買ったというだけでなく、工事を円滑にするためにS&Wという会社も買収し、損失を拡大した、という事例もあります。


3、サラリーマン経営者が原因?

大企業でこの「罠」に引っかかる原因は、いろいろな意見があると思いますが、個人的にはサラリーマン経営者の問題であると考えています。

今、大企業で経営者となっている人たちの大半は新卒でその企業に入り、様々な経験を積んで、いわば勝ち抜いて経営層となった人です。リスクをとって上がってきた、というより、リスクを取らないことで生き残ってきた、という方もいるでしょう。

そうした人の思考回路は「いかに失敗しないか」です。

一方で、今となっては唯一絶対の上司は、株主であり株価、投資家、です。
どの企業も情報開示は進んでいます。また、投資家向けのIRも行われます。
そこでは、過去の延長線上の戦略ではない、成長戦略を求められ続けます。

「いかに失敗しないか」で来たサラリーマン経営者にとっては、新たな成長戦略、と言われてもなかなか難しい。となると、社内に検討させます。

そこで上がってきた複数の案件の中から、何が選ばれるか?

当然、見た目が良くて、説明しやすくて、何より失敗しなさそう、な案件です。

でも、そういった案件は、既にどこかが同じようなことを考えているか、実は従来の延長線上か、どちらかです。

☑️ 前者であれば、買収をすれば競合があり、高値掴みになります。
この例が、東芝のWH買収(GEと三菱重工が入札で競合し、2,000億円と言われたところ6,000億円で落札)

☑️ 後者であれば、自社の技術陣の「できます」という説明を鵜呑みにした新市場への参入になります。
この例が、三菱重工の航空機参入(古くは零戦、YS11を手掛け技術陣は自信があったが経験不足やノウハウ不足は想定以上で納期は6回も延期、それでも目処は立っていない)

では、サラリーマン経営者とその対局であるオーナー経営者とでは何が違うのでしょう?

例として、ソフトバンクの孫さんという創業経営者。大株主でもある。

孫さんは(一緒に働いていた方の著書などから分かる範囲でですが)、失敗してもいいから全部試せ!その代わり、どれがいいか分かったらそこに資源を投入して一気に拡大する!という、計画的に失敗をすることを厭わない経営者です。

オーナー経営者とサラリーマン経営者との違いは、

☑️「成功には失敗が必要」「ただし失敗は小さく」がカルチャー
☑️ 減点主義で「失敗しない」ことがカルチャー

の違いなのだろうと思います。

「小さな失敗」も経験がないので、いきなり「大きな失敗」に直面すると「認めたくない」という心理からタイミングを逃したまま時間が過ぎ、損失が膨らむ、という訳です。

まさに「サンクコストの罠」です。


4、まとめ

失敗を悪いことと思うか、失敗を必要なことと思うか、の違いは大きいと中間管理職になってつくづく思います。

一般には悪いことでしょう。でも、新しいことにチャレンジした結果の失敗なのか、何回もやっていることの失敗なのか、で本来は失敗の価値は違うはずです。

前者を悪いこととして責めてしまうと、もう新しいことなどやろうとは思わないでしょう。

そのくせ、チャレンジ精神が足りない、とか、積極性が足りない、とか評価してしまうのです。

その積み重ねが、今回の「1兆円空回り」の原因、というとちょっと言い過ぎでしょうか?

今回のニュースに接して、チャレンジした上での失敗を認めるだけでなく、計画的に失敗させる、ぐらいのことをもっと積極的にやろう、と思いました。

前向きな失敗は称賛に値する、ですね。

あ、これ、自分に対しても、ですね。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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