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フィンテックと眠る飛行機と銀行と

銀行を取り巻く環境が厳しい。

今朝の日経新聞2面、3面に改めてそう実感する記事が掲載されていました。

一昨日のみずほ銀行通帳有料化もありましたが、フィンテックと飛行機と銀行の関係についてメモ。


1、飛行機と銀行?

まず、3面の「眠る飛行機8600機」ですが、なぜ銀行に関係があるかというと、銀行、特にメガバンクはゼロ金利に伴う収益機会として航空機リース事業の拡大に積極的だったからです。

そうなった契機は2008年のリーマンショックで痛手を受けた欧米系の金融機関から売り物が出たことです。

低金利で収益機会を探していた日本の銀行は積極的に買いに回りました。

2012年には三井住友銀行系の三井住友ファイナンス&リースが住友商事と共同で英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の航空機リース事業を約5,500億円で買収。

昨年も、みずほ系の東京センチュリーが米パシフィック・ライフ・インシュアランスから航空機リース会社、アビエーションキャピタルグループ(ACG)を約3,200億円で買収。

同じくみずほ系のみずほリースが丸紅と共同で米大手航空機リース会社エアキャッスルを1,900億円で買収。

三菱UFJフィナンシャルグループも独DZバンクの子会社から航空機ファイナンス事業を7,000億円超で買収。

と、買収ラッシュだったのです。

そこにCOVID-19です。ご案内の通り航空業界は大幅な売上減少に見舞われています。

記事には、航空機をリースしている航空会社がリース会社に対してリース料の減免を求めている旨の記載があります。そのリース会社というのは、日本では独立系のオリックスがあるもののそれ以外はほとんどが銀行系のリース会社で、しかもご紹介してきた通り、最近急激に事業を広げてきた領域なのです。

今後の状況次第ではありますが、おそらく、航空事業が活発で右肩上がりの成長を予想した前提で、しかも入札による買収だったと思われますので、今となってはかなり高い買い物だったと考えられます。

それにしても昨年買収とは間が悪いですね…


2、フィンテックと銀行

次に2面の「フィンテック勢巨大銀行を逆転」。

フィンテック企業の利益が拡大しており、4〜6月で見ると日米欧の大手銀行を上回るケースが目立った、という記事です。

具体的には米オンライン決済大手のペイパルの4〜6月の純利益は約1,600億円で、三菱UFJフィナンシャルグループは1,834億円ですが、みずほホールディングスの1,223億円、三井住友フィナンシャルグループの860億円はいずれもペイパルを下回る利益になっています。

他には時価総額でも負けていることやDXの対応でも業績に差が出てきていることなどが具体例を挙げて記載されています。

そちらは記事をご参照頂くとして、日本でのフィンテックって具体的にどんな展開になっているか、について記してみたいと思います。


3、日本でのフィンテックっていうと「PayPay」?

皆さんはフィンテックと聞いて具体的に何を思い浮かべるでしょうか?

身近なのは「なんちゃらPay」ですね。少額決済の手段としてかなり浸透しました。それも「PayPay」の100億円キャンペーンから一気に。

現金以外の決済手段と言うとクレジットカードがありますが、店側が負担する手数料が3〜7%と高く、特に全国展開していないような個人商店(まさに少額決済であることが多いですよね)は高く設定される傾向があり、普及していませんでした。

銀行でも少額決済手段の提供というのは昔試みたことがあります。デビットです。

デビットと言っても、今のVISA等のプラットフォームを使ったデビットではなく、銀行のキャッシュカードを店舗で使うことで決済できる仕組みです。

J-Debitと言って1999年に当時の富士銀行がNTTデータなどと組んで始めたものです。使えるのがATMの稼働時間と同じだったり使えるところが少なかったりであまり普及はしていません。

ただ、店側が負担する決済手数料は0.2%程度と激安です。これがもっと普及していたら、今の「なんちゃらPay」は登場する余地はなかったかもしれませんね。

さて、脱線してしまいましたが、今の日本のフィンテックに話を戻すと、世界的にも軌道に乗ったフィンテック企業は先ほどのペイパルのような決済系です。

日本では「PayPay」はまだ利益を出していない状態ですが、まずは利用者と加盟店というパイを拡大し、その中でシェアを取る戦略でしょうから今後、店側からの手数料をきちんと取り、利用者へのキャンペーンも抑えることで利益を出していく戦略と思われます。

もっと言うと、別に「PayPay」単体で利益が出なくても、データを収集しそれを販売したり、広告に利用したり、グループの金融などの事業に誘導したりすることで全体として利益が出れば良いという戦略も取れます。

決済系以外には、自動で仕分けをしてくれるfreee、資産管理系のマネーフォワードやマネーツリー、と言ったところもあります。みずほとソフトバンクが組んだAIのスコアリングでローンが借りれるというのもありました。

次に、あまり表には出てきていないものを見てみたいと思います。


4、日本でのその他のフィンテックの動き

フィンテックにはいろんな分類があると思いますが、銀行の免許が必要か否かで分けるというものがあります。

チャレンジャーバンク:銀行の免許を保有し決済のみならず、預金、融資、送金(為替)という銀行業務をスマホアプリなどを通じて提供する
ネオバンク:銀行の免許は保有せず、既存銀行と連携することでサービスを提供する

英国など一部の国では政策としてチャレンジャーバンクを育成しようと、銀行業の免許取得の要件を軽くしていたりします。

日本ではそうした動きはないのですが、実は、ネオバンク向けに銀行業務のプラットフォームを提供してそこで稼ごう、と考えている銀行が現れています。

代表が、住信SBIネット銀行で、その名も「NEOBANK」という構想を掲げてサービスを提供しています。すでにJALがそのプラットフォームを利用してJALカードの会員向けに預金まで含めたサービスを提供しているようです。

また、新生銀行も「BANKIT」という同様のサービスの提供を開始しており、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の子会社にサービスを提供しているようです。

なるほど、と思ったのが、住信SBIネット銀行の執行役員ネオバンク事業部長直海知之さんがインタビューの中で

「地銀もすべて自前のシステムでやらずにNEOBANKを使ったほうが効率化を図れる部分がある。さらに地銀と我々とでは顧客基盤が違うので共創のメリットがある」

と話していることです。

ご存知の方も多いと思いますが、SBIホールディングスは「第4のメガバンク構想」を掲げ、地方銀行に出資を行い始めています。

これまでの報道でも「システムの統合」というのはメリットの一つとして出ていましたが、JALなどの事業会社に提供するネオバンクのプラットフォームがそのまま地銀にも提供できる、ということです。

これにより、様々な業界の事業会社に加えて、様々な地域の地銀までもがSBIのプラットフォームを使うことで、その利用情報をSBIは得ることができます。

先ほどの「PayPay」と同様、そのデータを収益に結びつけることも可能かもしれません。

個人的にはSBIの動きは、弱小地銀(失礼)に出資して連合してどういうビジネスモデルが描けるのかいまいち納得感なかったのですが、このインタビューを読んで納得できました。

ゲームチェンジャーになるかもしれませんね。


5、まとめ

何かをしようとするとほとんどの場合お金の動きが伴います。メガバンクをはじめとした銀行は、その、他では得られない貴重な情報を豊富に持っていましたが、十分に活用できていなかったと言えます。

例えば、融資でも、さすがに昔の紙の稟議書は無くなりましたが、いわゆるスコアリングモデルとしてしまったためにそれ以外の情報を見なくなりました。

一方で、最近少額融資に参入しているフィンテック事業者は決済プラットフォームを押さえることで資金の流れが全て掴め、その分析をAIで自動化することで担保を不要で素早く融資の可否を判断、金利競争でない利便性で収益を上げ始めています。

その決済の情報は従来は銀行口座を通じて行われていたはずです。

銀行業には厳しい本人確認義務など様々な規制によるコストが重くのしかかるのも事実ですが、フィンテック事業者が今まで銀行が気付かなかった(あるいは気付いて手も打っていたが十分でなかった)領域でビジネスチャンスを見つけ活躍し始めています。

持っている者は、いつしかそれが当たり前になり、それが持つ価値に無頓着になります。

一方で、この変化を積極的に利用し、プラットフォーマーの地位を固めてしまおうという銀行も出てきています。

この先数年、銀行業界では大きな変化が起こりそうです。部外者から見ると非常に興味深い、という見方もできますが、

「持っている者は、それが当たり前になってしまっている」というのはどこの業界でも当てはまるのでは?

と自分に言い聞かせ、もう一度見直し、チャンスにしたい、と今朝の日経新聞を見て(色々と考えた末に)思いました。



最後までお読みいただきありがとうございました。

少しでも参考になったところがあれば嬉しいです。

一緒にこの変化を楽しんで行きましょう!

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