火狼と青烏 前編3
**4**
「もうひと押し。あのコ、殴って」
〝追加料金が発生します〟
「ガメついわねぇ」
わたしは愚痴りながら「認可」をタッチした。
イヤーピースで命令を受けた男が青烏の髪を掴んで引き起こした。
涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔を拳で殴る。
ゴツッという痛そうな音がして、青烏はベッドに倒れ込んだ。
「……!!」
火狼が狂犬のように喚いた。
「てめえ……てめえ……ブッ殺す!!」
「火狼くん。あなたが彼を抱くと言うのなら、その人たちには出てもらうわ。
イヤならこのまま好きにさせて、そのあと青烏くんだけ買い取ろうかしら」
彼の表情に動揺が走った。
視線を青烏にやる。
唇の端を切って血を流した彼は、懇願するような表情を向けた。
「やめて、火狼くん……」
青烏は弱々しく微笑んだ。
「ぼくは、大丈夫だから……」
そのとき火狼が浮かべた表情は言葉では言い表せない。
ハートが壊れそうなほどの葛藤に見舞われている。
わたしは興奮すると出る自分の癖、唇を舐める回数が増えているのを自覚していた。
「できない? それじゃあ……」
「待って! 待ってくれ……」
「ん? 何? 聞こえないわ」
「俺が青烏を抱く……」
絞り出した声に、青烏の表情に絶望が走った。
彼の中で何かが砕け散っていくバリバリという音すら聞こえるよう。
「嘘だよね、火狼くん……?
そんなことしたら、ぼくたちもう友達じゃいられなくなっちゃうよ……
友だちじゃなくなっちゃうんだよ……?」
「いいのね、火狼くん」
彼はうなずいた。
男たちに部屋を出るよう告げると、少年ふたりが残された。
「こっち来いよ」
火狼が言ったが、青烏はベッドに横たわったまま動かない。
「来いって!」
怒鳴り声を上げると、青烏はびくっとした。
恐る恐るベッドから這い降り、火狼の前まで行く。
引き裂かれたシャツの前を、自分を抱くようにかき合わせていた。
うつむいた青烏は、潤んだ瞳で彼を上目遣いに見た。
「やめよ、ね……?」
一瞬、火狼の眼に動揺が走った。
だけど彼は自分の中の感情を振り払うように青烏を抱き寄せた。
「火狼くん……!」
か細い悲鳴。
火狼は乱暴に相手の唇を貪った。
こじ開けるようにして舌をねじ込む。
青烏の抵抗はわずかで、あとはほとんど無抵抗にそれを受け入れた。
彼の白い肌を這い回る火狼の手つきは拙いものの、やはり気遣いがあった。
青烏がびくっとする部分があれば躊躇して止まり、おずおずと、より優しい愛撫になる。
指先は胸から脇腹、背に回った。
腰のあたりに触れると、青烏が小さく息を漏らした。
火狼が知らなかった秘密の場所……友達のままなら永遠に知ることはなかった場所。
少年のみずみずしい肉体が絡み合い、甘い息が漏れる。
「青烏っ……!」
そのまま押し倒し、ふたりはベッドに倒れ込んだ。
火狼は青烏の首筋に吸い付きながら、腰から尻の割れ目、肛門のあたりを指で探った。
青烏は虚空を見つめたまま吐息を漏らした。
「う……!」
怒張した火狼のものが青烏を欲しがっている。
相手の両脚を広げた。
「青烏」
「火狼くんはそんなことしないよね……?」
まるで子犬が飼い主に見せるような眼。
それを向けられた火狼がほんの一瞬、泣きそうな顔をした。
火狼は自らのものを手にし、先端を相手の肛門にあてがった。
「……!」
声にならない悲鳴と、頬を伝う涙。
「ああああ……!!」
火狼の口から長い息が漏れる。
「ひっ……! ダメ……、う、動かない、でっ……」
それを無視し、火狼は不器用に腰を動かし始めた。
乱暴に往復するたび、青烏の口から悲鳴が上がる。
「痛い!」
「青烏……!! 青烏ぅ……!」
「痛い! 痛いよぉ、火狼くん!」
火狼はまったく動きを緩めない。
悲痛な泣き声は終わることなく繰り返された。
「痛い! 痛い! 痛い……!」
「はぁっ、はぁっ、青烏! 青烏!! 青烏……!!」
前かがみになって青烏の唇を奪う。
行き場を失ったふたり吐息が、重ねた唇の狭間から溢れ出した
火狼の腰の動きが駆り立てられるように速くなり、そして……
「んぅぅう!?」
「ん、んん~……!!」
火狼は青烏を抱き締めたまま、しばらく肩を上下させていた。
呼吸が徐々に落ち着いてくると腰を引いてそれを抜く。
唾液の糸を引いて、ふたつの唇がゆっくり離れた。
「あ……」
乾いた瞳で天井を見ていた青烏が、小さく息を漏らした。
余韻を含んだ喘ぎ声だけが部屋を満たしている。
「青烏……」
火狼がふたたび唇を寄せたとき、青烏はキッと彼をにらんだ。
両手で力一杯突き飛ばす。
「わっ!」
泣き腫らした目で、ほんの数十分前まで親友だった男の子を睨んでいる。
青烏は相手に背を向けてうずくまると、両手で顔を覆い、声を殺して泣き始めた。
ふたりを繋いでいたものは二度と戻らない形で変わった。
わたしは眼を閉じ、言葉にできない快楽に身を震わせた。
じんわりと体に染み込むような、胸の奥が痺れるような……食欲とも性欲ともまったく違う悦びに。
「ふう……! 良かった」
しばらく余韻に浸った。
たっぷり一分ほど頭の奥で反芻してから、火照った頬を押さえる。
通話を隷層商人に変え、言った。
「ふたりとも買うわ」
(火狼と青烏 全編 終)
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