リベレーター:ボーイミーツボーイ3
**7**
園緒はいつだって一番だった。
学校の成績はもちろん、ルーラーの国家試験を一発でパスし、業界最大手のウォーテックへ華々しい入社を果たした。
次の同窓会では今回の仕事をいかに華麗にこなしたかを出世頭の代表として語るつもりでいた。
その彼は今、裏路地の軒下で隷層に犯されている。
日午は園緒を壁に押し付け、後ろから突き上げた。
園緒が拒否すると容赦なく尻にスプーンを押し付けた。
麻薬の吸引用に持ち歩いているもので、ターボライターで熱してある。
「ひっ!!」
「ほら、自分でお尻を振って。ご主人様と呼んでごらん」
「ご、ご主人様……」
その言葉を嬉しそうに聞き入る。
奥にホームレスが集まってこちらを見ている。
園緒は手を伸ばして必死に助けを求めたが、彼らは薄ら笑いを返すだけだった。
おこぼれを期待しているのだ。
園緒の揺れる尻を眺めながら、日午は目を細めて息を漏らした。
「ああ、いいよ……ほら、ギュッて絞めて! 搾り出して……」
「ひっ……!」
尻にさらに強くスプーンを押し付けた。
苦悶に身をよじる園緒を恍惚と見つめながら、日午は果てた。
しばらく中空を見つめて余韻に浸っていたが、彼の髪を掴んで強引に膝立ちにさせ、まだ小さく痙攣している自分のものを突きつける。
きれいに舐め取らせながら優しく言った。
「義眼を見てごらん。表示はどうなってるんだい?」
「わからない……みんなメチャクチャで……」
「わからないです、って言ってほしいな」
「ふぐっ!?」
髪を掴み、喉の奥に無理やり突っ込んだ。
暴れる姿を微笑みながら見つめ、窒息寸前で抜く。
激しく咳き込む園緒にこちらを見上げさせた。
「よく見てごらん。所有隷層の表示はどうなってる?
オレはあなたの支配下になってる?」
「はい……名前がかろうじて読める……読めます……」
「支配下のままってことか」
日午は精製フェイロンのタブレットを口に放り込んだ。
輪違《ワチガイ》製薬の風邪薬フェイロンは、自家精製することで覚醒作用を持つ麻薬になる。
「むしろ好都合だ。他のルーラーの所有物にならなくて済む。
ほら、もっと舌を絡めてごらん……義眼のサーチ機能は動くのかい?」
「はい……」
「よし。それじゃ、あの女を捕まえに行こう。
オレたちで捕まえて、直接依頼人に届けて金に換えるんだ」
園緒を立たせ、首を掴んで壁に押し付けた。
鼻がくっつくくらい顔と顔を近付け、歯を剥き出して笑う。
「初めて会ったときからあなたを愛していた。
ふたりで世界の果てへ逃げよう」
**8**
朱梨《アカリ》は古着屋の試着室にいた。
普段着からコスプレ衣装、使用済み下着まで何でも売買できる店だ。
カーテン越しに店員と雉流の話し声が聞こえる。
「よかったな雉流くん、やっと服を買ってあげられるコが見つかったんだな!
今日も等身大フィギュア用のを買いに来たもんだとばっかり」
「うっせーほっとけ!」
カーテンの下から服の入った籠が差し出され、雉流の声がした。
「サイズが合うかな」
「ありがとう」
タオルで髪と体を拭ったあと、朱梨は籠から取り出した下着をまじまじと見つめた。
(これ、女の子の……)
姿見に映した彼の体は、間違いなく男性のものだった。
肌は真っ白、華奢で撫で肩だが、その象徴は隠しようもない。
とにかくパンツに両脚を通し、ブラをつけた。
しっくりくるとは言いがたいが、初めて女装したときと同じくらい胸が高鳴った――女装自体は初めてではないが、女性用下着をつけるのは初めてだった。
ハイネックセーター、ミニスカート、スニーカーを着付けてカーテンを開くと、店員と話していた雉流が振り返った。
その姿にすっかり見とれている。
「おお……!」
「え? なんかヘン?」
雉流はものすごい勢いで首を振った。
「カワイイよ、すっげーカワイイ! デビュー当時のトキにゃんみたいだ! ブッダもそう言ってる!」
「ブッダは言ってないと思うけど……」
「オレがそう言ってる!」
雉流にキラキラする目で見つめられると、突然、朱梨の男性の象徴が猛烈に存在をアピールし始めた。
真っ赤になった彼はあわてて下腹部を押さえ、内股で中腰になる。
(キ、キミってヤツは! 誰かに女の子扱いされるとすぐそれだ!)
「どうかした? 体調悪い?」
「う、ううん……平気」
レインコートを着込み、店を出た。
ギャングの銃撃戦は終わり、財音市警が通りを封鎖して捜査している。
車線が減った上に帰宅ラッシュが重なり、大渋滞になっていた。
タクシーの乗り場に人々が長蛇の列を作っている。
「参ったな、逃げられないぞ」
「大丈夫。あの人たちは追って来れないから」
「え? 何で?」
「仲間割れしてそれどころじゃなくなってる」
雉流は不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も聞かなかった。
とりあえず歩道のアーケード下に入った。
雉流がにこにこしながらずっとこちらを見つめているので、朱梨は気恥ずかしくなって眼を伏せた。
それでやっと雉流もすまなさそうに視線を外した。
気まずい空気になり、朱梨がおずおずと言った。
「服のお金だけどね……」
「いいってことよ。ちょうど買いそびれちゃったものがあったからさ」
「何て言うの?」
「魔界勇者伝ゲンセツ! 知ってる? 旧世紀の隠れた名作なんだよ」
「そうじゃなくて名前。キミの」
「うん? ああ、雉流」
朱梨はとっさに思いついた偽名を口にした。
「シュリ」
「シュリちゃん!」
「さっき、すごく嬉しかった」
「服のことなら……」
朱梨は首を振ると、感謝の笑みを向けた。
「ううん。あのとき、助けに入ってくれた。ありがと」
「ああ、うん」
雉流は赤くなった顔をごまかすように早足で歩き出した。
「電車で行こっか。
それから……うん、まあ、それからのことはそのとき考えよう!」
ほんの5000兆円でいいんです。