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認知症のパートナーを抱える患者さんのお話し
1.すでに介護施設に夫婦で入居している患者さんの事例
さて、今回の事例は、すでに介護施設にご夫婦で入居されている患者さんへの対応について書かせていただきます。このご夫婦は患者さんのパートナーが認知症になったことで、一緒に介護施設に入居することになったそうです。しかし、現在の入居先に不満を持っている患者さんは、別の介護施設に転居したいと思うようになったそうです。
2.入居している介護施設の問題点に対してアプローチ
(1)なぜ、介護施設を移りたいと思ったのか?
この患者さんとは、以前から介護相談で接点はりました。基本的には透析治療中ということぐらいで、すぐさま介護施設に入居しなければならないような方ではありませんでした。この患者さんを「Aさん」とします。
ある日、「Aさんが介護施設の転居を考えている」と透析室のスタッフから聞きました、Aさんが入居先の介護施設に対して不満を漏らしていることは知っていました。一向に改善されないその問題を、遠方に住む家族にも相談していたようで、転居を勧められたことがきっかけでした。
(2)まずは、現入居先に訪問し患者さんの状況を確認
僕は、まずその介護施設でのAさんの様子を知りたいと思い、日を改めてAさんが入居している介護施設に訪問しました。Aさんが暮らすお部屋にお邪魔し、介護施設の利用状況やご家族のことを聞き取りました。
Aさんから聞いた内容の中で、特に僕が気になったのは「利用料のこと」、「サービス内容のこと」、そして「Aさんのパートナーのこと」でした。
(3)Aさん夫婦の施設の利用状況について
Aさんの話を聞き、僕は正直「そもそも入居した施設形態がお二人に合っていない」と思いました。
Aさんはほぼ自立、Aさんのパートナー(この方をBさんとします)は認知症で、2人部屋で一緒に暮らし、施設の形態から、介護施設に入っていても、AさんはBさんの面倒をある程度見なければならない状況だったのです。このときBさんはデイサービスに行っていたので会うことはできませんでしたが、確かに転居はした方が良いように思いました。
(4)Aさんと一緒に介護施設の見学
色々な話を聞かせていただき、僕としては「確かに一旦介護施設を転居した方が良いかもしれない」とAさんに話しました。そしてその介護施設の候補を僕の方で探すことにしました。
Bさんが認知症であることから、今は夫婦二人で生活できていても、Aさんにも限界があるだろうと考え、Bさんへのサポート体制を重視した介護施設を探すことにしました。そして、意外にも当院から近い場所にある施設に目星を付け、Aさんに見学に行くかどうかの確認をしました。Aさんも是非お願いしたいとのことで、この日は、Aさんの透析終わりに、僕とAさんで介護施設の見学をし、その後一緒にAさんの介護施設に帰り、その流れでBさんにも会わせていただく、という流れになりました。
(5)Aさんの見学の感想とBさんの様子について
見学当日、ぼくとAさんは目星を付けた介護施設に訪問しました。Aさんは、かなり気に入られてましたが、2人部屋の空室がない状態でした。
Bさんの状態がまだわからない僕は、「もし本当に転居されたいなら、一旦Bさんがここに移り、一旦自宅に戻る方が良いかもしれません」と伝えましたが、Aさんはあまりいい表情をしませんでした。
僕は一旦、Bさんの状態を見てから考えたいと思い、Aさんの施設に向かいました。そして、Bさんと対面するとBさんは僕を見るなり「今日は忙しいから帰ってほしい」と言い、かなり不機嫌そうでした。僕も負けじとコミュニケーションを取ろうと頑張りましたが、最終的には「もう二度とここに来ないでほしい」と言われてしまいました。
Bさんは僕が想定していた以上に、認知症が進行していました。僕は、Bさんの状態を見て、AさんがBさん一人を介護施設に入れることに抵抗があったのは、このためだったのだということがわかりました。
(6)Aさんへの再提案
後日、通院されたAさんに先日のことを含めて、僕は改めて今後のことについて提案をしました。それは、「AさんとBさんが今の介護施設にそのままいること」です、僕は、介護施設とは言えAさんと同じ部屋でいることは、Bさんの心的ストレスへの軽減にも繋がりますし、何よりBさんは認知症でもあるため環境の変化で認知症が急激に進行することも考えられます。そして、AさんはBさんが一人で介護施設に入ることに対しての不安もあることから、今は転居による急激な環境変化よりも、Bさんの認知症の症状を和らげることが先決だと思ったからです。
僕は「Bさんの認知症の症状を落ち着かせるため、精神科の往診が可能かどうかを介護施設に確認してほしい」こと、そして「受診によって、Bさんの状態が改善したら、そのタイミングで再度AさんとBさんの入居先について考えましょう」と提案をしました。するとAさんは「そんなことができるんや、聞いてみるわ」と言ってくれました。
Aさんに再提案をした数日後、当院に来られたAさんにその後の経過を聞きました。
Bさんは、無事介護施設で精神科医師の往診を受けることができ、薬も処方してもらえたそうです。Aさんからは、「今回、本当に相談してよかった」というお言葉もいただけました、しかし、本来のAさんの望みに今回は応えることができませんでした。
3.今回のケースについて(まとめ)
今回のケースはまだ現在進行形の話ではありますが、日常的に介護が必要になったからといって、「介護施設ならどこでもいい訳じゃないことがよくわかる出来事」だったと思います。
Aさん夫婦はすでに介護施設に入居中だったので、まだご理解いただけていましたが、そうでない方からすれば、「自宅で介護していくことの難しさ」から、介護施設を検討されている方がほとんどです。しかし、今回のケースのように、「まずは生活環境と家族のケアを整えること」から始めなければ、介護施設の選択肢すら少ない場合も考えられます、ご家族の中に「今後自宅での介護が難しくなるかもしれない」、「これから介護を受けさせようと思っている」方は、担当のケアマネージャーさんや、お住まいの地域の「地域包括支援センター」に気軽に相談してみてください。「今は必要じゃないと思ってるけど、、、」ということではなくて、「今後必要になったときにどうしたら良いか」と聞いてもらった方が良いと思います。
今回のケースでは「介護施設への入居を考えることだけがベストじゃない」ことを中心に書かせていただきましたが、入居者本人やその家族の「生活歴や生活環境」、「現在の介護サービスの必要度合い」をくみ取ったうえで、「本人が望む生活の実現」のために適切な施設はどれかで選ぶことが大切なんです。
最後までお読みいただき本当にありがとうございました!