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戦争もタワレコもない町で

少しエッセイみたいなものを書いてみようと思う。続けるか分からないけれど、とりあえず第1回。

仕事終わりの午後9時。幹線道路沿いにあるスターバックスに小説を持ち込んで、小さなモンブランを食べながらじっと読んでいる。戦争もタワレコもないこの小さな町で、深夜11時まで開いているスタバは一種のシェルターだ。中央道のインター近くにあるので、ドライブスルーを利用する客が多いが、店内にもかなり多くの客がいる。

オシャレな格好でデートをしているカップルも多いが、大半は僕のような仕事終わりの労働者たちだ。詩集を眺めるOL、ネクタイを緩めてスイーツを楽しむ紳士、行政書士の参考書を広げながら黙々と勉強する茶髪の兄ちゃん。皆僕の味方だ。誰もが周囲に無関心で、テラスには激しい雨が降っていて、それでも渋谷のスタバよりはずっとあたたかい。

今日は岩波現代文庫から出た新刊の「アジアの孤児」を序盤の終わりまで読んだ。植民地時代を描いた台湾の古典的名作、という前評判は聞いていたが、半世紀前に刊行された本邦版は入手が難しかったので、今回文庫が出てとても嬉しかった。こんなに引き込まれるような文章だったとは。

僕も誰かを魅了するような文章を書いてみたい、とは思う。新聞記者という仕事をしている以上、文章の力で何かを変えてみたいし、ペンの力とやらをなるべく信じてみたい。でも、僕の心のど真ん中にある欲望は、そういう願望とは少しズレている気がする。

規格化されたスターバックスにもカラフルな客が集まるように、就職してレールの上を歩む自分の人生にも、かすかな色があってほしいと願う。そのための文章を、そのための表現を手に入れてみたい。自分の好きな文章を自分が生み出してみたい。自分を好きになるための文章。自己嫌悪との静かなたたかい。

ひとつ人生のレールの上で踊ってみようか、という気持ちで過ごしてみよう。風を切って走れば、たとえのレールの上でもさわやかな気持ちになれるはずだ。頑張ろう。

そんなことを考えているうちに閉店時間になって外に出た。激しく降っていた雨は止んでいて、遠くの田んぼから聴こえる蛙の声だけが小さく響いている。こんな夜にひとりで叫んでみたくなる自分の気持ち、きらいじゃない。

この滅裂とした文章をここまで読んでくれた方がいたらめちゃくちゃありがとう。ではまた。

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