爽やかに失恋するな、クソ羨ましい
軽音楽部の後輩に誘われ、鶴見川沿いの小さなたこ焼き屋で夜9時から酒を飲んだ。彼はその日、片想いしていた女が自分の親友とくっついたことを知り、ひんひん嘆きながらギガサイズのハイボールを飲み干していた。
バカだなと思いつつ、自分のクソダサい部分を一切ごまかすことなく「負けた!!!くやしい!!!!」と笑って話す彼が羨ましくもあった。僕ならその日は平然とやり過ごした上で夜中に親友とその子のSNSを全てブロックして、銀杏BOYZを聴きながら二人の愛を三日三晩呪い続けたに違いない。
彼の爽やかな笑顔に負けじと、僕はふんぞり返った態度で耳を傾け、「どうせ大した女じゃないから気にするな」と生意気なことを言った。振られた女を過小評価すること以上にダサい態度はないというのに。
それから常連客に絡まれ、マダコの記録的不漁によるたこ焼きの値上がりを嘆き、気づけば河川敷に座り込んで川面を眺めていた。同じ軽音楽部だったのに、僕たちは音楽の趣味が一切噛み合わないので、むしろ会話が弾む。趣味の話に逃げず、お互いの人格に肉薄しながら語り合うような。恋愛の話、これからの話、下ネタに思い出話。彼との友情には嘘がないと自信を持って言える。いちいち「友情」と表現するのもバカらしいくらい、僕は彼のことが好きだ。
日付が変わる頃、彼は思い出したようにもう一度「悔しいなあ、付き合えると思ってたのに、いい感じだったのにさ〜!」と嘆き、河川敷の堤防にぐったりと身を寄せた。僕も繰り返すように、「大した女じゃないよ、お前が逃した魚は小さいよ」と応えた。こんなに爽やかな失恋をする男がここまで惚れるなんて、絶対いい女に決まっているのに。
僕は彼に幸あれと願い、酔っ払う彼を真夜中の鶴見川に置いてきた。爽やかな失恋を僕に見せつけるぐらいなら、フワフワかわいい彼女でも作って末永く幸せになってくれ。社会人になって記録的不漁に見舞われる前に、ひとまず目星をつけてくれ。おれはお前の見ていてムカつく所が大好きだ。
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