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物事を正しく怖がるということ。

薬剤師の仕事は難しい。簡単ではない。
間違えると簡単に人の命を奪ってしまう。
これは断言できる。

周りからは簡単そうに見える仕事ほと、難しいのである。
マニュアル的知識、教科書的知識だけではなく、
暗黙知、経験知などが重要なのだ。

1年目や2年目、学生さんも見ているとそれぞれ個性がある。
同じ薬剤師や薬学生でも全く性格や特徴が異なるのである。

若い薬剤師や薬学生ちゃんに身につけて欲しいのは、

「正しく怖がる」技術なのである。

これは非常に難しく、怖がるためには知識が必要である。

知識がないと怖くない、怖がることすらできないのである。

たとえば、子供はおばけを怖がる。
これは、ちいさいろからお話しや絵本などで、おばけはこわい、と教えられてきているからであり、これらの経験がないとおばけも怖くないのである。

以下の引用は、「幼児期における恐怖対象の発達的変化」という論文からである。

 内容的には年齢や男女問わず、お化け、動物・虫、幽霊、暗闇、1人でいることなどが多く挙げられ、加齢に伴い想像的なものに対する恐怖が増加することが示唆された。考察では、幼児期における恐怖対象とその発達的変化を踏まえた上で、「怖い」を楽しむ実践を育児や保育においてどのように位置づけ、展開していくかが議論された。

富田, 昌平, 2017, 幼児期における恐怖対象の発達的変化: 三重大学教育学部, 129–136 p.

これによると、保育園次を一般的な、おばけ等の恐怖対象に対する感情を評価した結果、お化けや暗闇、一人でいることなど、特に想像的なものに対する恐怖が強く、年齢があがるにつれ恐怖対象の数や強さは減少するということを示している。
お化けなどは魔術的現象であり不明瞭さがあるという本質的な理由であるが故に、それに対して恐怖を抱くとまとめられている。そして、動物や虫などは、それらの謎めいたものでは決してなく、想像的なものとは大きく異なり、その恐怖の正体を暴くことができると述べている。

このように、お化けが怖いのは、「わからないから」であり、動物や虫は、最初は怖いがその正体や仕組みがわかると怖くなくなるのである。

わからないものは怖い。特にだれもわからない、答えがないものは怖いのである。
しかし、薬学という学問は、一応の答えがある世界、正解がある世界、もちろんわかっていないことも多いが、一応は教科書や添付文書を理解していれば、怖くはない世界である。

でなければ、お医者さんが他人の腹を切って、手術なんてできないだろうし、パイロットは飛行機なんて飛ばせないのである。
理解している、完璧にわかっているからできるのである。

知っていることが増えると、漠然とした怖さが減る。
ただ、その逆も言えるのではないか。

知らないから怖くない。怖さを知らない。
これが一番怖い。

薬剤師という仕事は薬学という学問の上に成り立っている。
薬学というのは学問である。

学び続け、正しく怖がり方を身につけることが良い薬剤師への近道になると思う。

PS.
多くのメンタル系疾患も、「正しく怖がる」ことができないために引き起こされる。それを防ぐには、自分の現在の状況を客観的に正しく見つめられるようにする訓練が必要。メタ認知力である。
これについてはまた後日書こうと思う。
わからないという想像が恐怖を作り出しているだけなのである。