J・オースティンの「高慢と偏見」を翻訳ソフトはどのような文体で翻訳していくのか実験してみよう
日本英語を創造するために翻訳ソフトと格闘する
語学教育の現場ではいまでも翻訳ソフトは禁止である。大多数の英語教師は生徒に翻訳ソフトを使ってはならぬと教育する。しかしこの数年、翻訳ソフトは長足の進化を遂げていて、短文ならばその翻訳精度は極めて高い。囲碁や将棋の棋士たちがコンピューター囲碁やコンピューター将棋を作動させてその力を鍛えてあげているように、開発途上製品であるが、このソフトを作動させて語学トレーニングに励むとき、学習者の英語力をまた飛躍的に向上させるはずである。いまここで翻訳ソフトを駆動して私たちの英語力を鍛えるために二つの小説に取り組んでみよう。
現在の翻訳ソフトがどれほどの力を持っているかを、夏目漱石が文学に開眼したイギリス文学の古典的名作、ジェーン・オースティンの「高慢と偏見」で検証してみよう。「高慢と偏見」の冒頭の原文はこうである。
It is a truth universally acknowledged, that a single man in possession of good fortune, must be in want of a wife.
However little known the feelings or view of such a man may be on his first entering a neighbourhood, this truth is so well fixed in the minds of the surrounding families, that he is considered as the rightful property of some one or other of their daughters.
“My dear Mr. Bennet,” said his lady to him on day, “have you heard that Netherfield Park is let at last?”
Mr. Bennet replied that he had not.
“But it is,” returned she; “for Mrs. Long has just been here, and she told me all about it.”
Mr. Bennet made no answer.
“Do not you want to know who has taken it?” cried his wife impatiently.
“You want to tell me, and I have no objection to hearing it.”
This was invitation enough.
この英文を翻訳ソフトはどのように翻訳するのか。以下がもっとも進化しているグーグルの翻訳ソフトが翻訳した日本語訳である。
幸運を手にした独身の男性は妻を求めているに違いないということは、広く認められている真実です。
そのような男性の感情や見解が彼の最初の近所に入ることはほとんど知られていないが、この真実は周囲の家族の心に非常にしっかりと固定されており、彼はその娘の誰かの正当な財産と考えられている 。
「私の愛するベネットさん」と彼の女性は彼に言った。「ネザーフィールドパークがついに解放されたと聞いたことがありますか?」
ベネット氏は、そうではないと答えた。
「しかし、そうです」と彼女は返しました。「ロン夫人はここに来たばかりで、彼女はそれについてすべて私に言った。」
ベネット氏は答えなかった。
「誰がそれを服用したか知りたくありませんか?」彼の妻は焦りました。
「あなたは私に伝えたいのですが、私はそれを聞くことに異議はありません。」
これは十分な招待でした。
世界文学の古典的名作は、なにやら日本の大学教授たちが書くようなわけのわからぬ日本語である。深く追求していくと脳みそがぐちゃぐちゃになっていく。日本の大学生たちはこういう日本語を読まされるのだ。
それでは英語と日本語を熟知した翻訳の達人中野好夫はこの冒頭の下りをどのような日本語で紡いだのだろうか。以下が中野訳である。
独りもので、金があるといえば、あとはきっと細君をほしがっているにちがいない、というのが、世間一般のいわば公認真理といってもよい。
はじめて近所へ引っ越してきたばかりで、かんじんの男の気持ちや考えは、まるっきりわからなくとも、この真理だけは、近所近辺どこの家でも、ちゃんときまった事実のようになっていて、いずれは当然、家のどの娘かのものになると、決めてかかっているのである。
「ねえ、あなた、お聞きになって?」と、ある日ミセス・ベネットが切り出した。「とうとうネザフィールド・パークのおやしきに、借り手がついたそうですってね」
さあ、聞かないがね、とミスター・ベネットは答える。
「いいえ、そうなんですのよ、だって今もロングさんの奥様がいらして、すっかりそんなふうなお話でしたもの」
ミスター・ベネットは答えない。
「あなたたったら。借り手がだれだか、お聞きになりたくないんですの?」奥様のほうは、じりじりしてきて、声が高くなる。
「お前のほうこそ話したいんだろう? むろんに聞く分にはすこしも異存はないがね」
待ってました、というところだ。
この中野好夫訳を、翻訳ソフトはどのような英文に転換していくのだろうか。
Speaking of being alone and having money, you must surely want a wife, in other words, the public can be said to be the official truth.
I just moved to my neighborhood for the first time, even if I do not understand the feelings and thoughts of a simple man, this truth alone is a fact that has been found in every house in the neighborhood, it is, of course, deciding which daughter of the house will belong.
"Hey, you ask me?" Said Mrs. Bennett one day. "It seems that the borrower has finally arrived at Nassfield Park."
Well, don't ask, Mr. Bennett replied.
No, that's right, even though Long's wife was still here, it was just such a story." His wife is nervous, and his voice is louder.
"Do you really want to talk? I don't think there's anything wrong with listening to it, of course. ''
I was waiting.
名訳として評判の高い中野康司訳はこうである。
金持ちの独身男性はみんな花嫁募集中にちがいない。これは世間一般に認められた真理である。
この真理はどこの家庭にもしっかり浸透しているから、金持ちの独身男性が近所に引っ越してくると、どこの家庭でも彼の気持ちや考えはさておいて、とにかくうちの娘にぴったりなお婿さんだと、取らぬタヌキの皮算用をすることになる。
「あなた、聞きました? ネザーフィールド屋敷にとうとう借り手がついたんですって」ある日、ベネット夫人が言った。
いや、聞いてないね、とベネット氏。
「それがそうなのよ。だったいまロング夫人から聞いたんですから間違いないわ」
夫は無言。
「あなたったら! 借り手がどんな人か知りたくないの?」じれったそうに妻は声を荒げる。
「べつに。だが、おまえが話したいんなら聞いてもかまわんよ」
呼び水はこれで十分。
この日本語を翻訳ソフトはどのような英文に転換するのか。以下が翻訳ソフトが転換、あるいは創造する英文である。
All rich single men must be looking for brides. This is a universally accepted truth. This truth is so pervasive in every household that when a rich single man moves into the neighborhood, every household will say, regardless of his feelings and thoughts, that he is the perfect son-in-law for our daughter, you will be doing the calculation of the raccoon dog that you do not take.
"Did you hear? Netherfield House is finally rented," said Mrs. Bennet one day. No, said Mr. Bennett. "That's the way it is. And now that I heard it from Mrs. Long, I'm sure of it."
Her husband is silent. "You! Don't you want to know who the borrower is?" her wife yells impatiently. "Not at all. But if you want to talk, I don't mind." This is enough for priming.
翻訳ソフトの開発システムは、文章を解体して単語を数字で組み立てていくルーベンスシステムと、おびただしい言語を採集して統計的確率によって転換していく統計的システムの両輪で開発されていく。ヘミングウェイもオースティンも異なった訳者によって多数翻訳されている。それらの仕事が開発システムに組み込まれたら、翻訳ソフトのレベルは格段に進化するだろう。
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