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来戸 廉
2024年9月30日 10:00
「これは、なーに?」 健太が黄ばんだ一枚の紙切れを差し出す。「ん?」 手渡された四つ折りを開くと、鉛筆書きの拙い文字で『人は、なぜ生きているのか』と走り書きがある。多分、私の子供の頃の筆跡だ。「どこで見つけたんだ?」「この本に、挟んであった」 それは小学校低学年向けの昆虫の図鑑だった。教科書は疾うの昔に処分したのに、何故かこれだけは捨てられずに残していた。 私はしばし記憶の森を彷徨
2024年9月24日 09:44
ある日の午後。僕が塾に行こうと外に出たら、空からいっぱい雲が降ってきた。それは、音もなく道に落ちた。僕は、最初その白いふわふわとした塊を綿菓子だと思って拾い上げたが、一口囓って違うことに気づいて捨てた。よく見ると、歯形が付いたのが、道のあちこちに幾つも転がっている。 ――なーんだ。僕だけじゃなかったんだ。 僕はコンビニの前で信号を待ちながら、道路に転がった雲を器用に避けて走る車と、その度に