僕の好きだった人
小5の春だろうか。
僕は、隣で本を読む少年に恋をした。
「その本、面白そうだね。僕も買おっかな?」
「貸そうか?もう読み終わるし」
なんか、そういう会話が最初だった様な気がする。その子は、ただ僕の読みたかった小説を貸してくれたのだ。
小学5年、僕は仲のいい子たち全員とクラスが離れ、そして中学受験のために本腰を入れて頑張ろうとしていた。
それと同時に読書に没頭していた。
当時では、同じ趣味を持つ人間はいない様な歴史小説に純文学、難しめのテーマの専門書。
そういった類のものを僕は一人休み時間に堪能していた。
(子供文庫も普通に嗜んでいたが…)
そんな時だった。
彼と隣の席になったのは‥
彼は、背の順では隣で少し長髪気味で天然パーマの可愛らしい癖っ毛。僕より少しだけ小さな身体はか細く、ちょっと童顔な顔は、外で野球をしているとは思えない程の白い肌で覆われていた。
そして当時では考えられない程大人びた彼の性格は、時に僕を救い、時に幸せにした。
でも、時々僕だけに見せるその顔に相応のお茶目で可愛らしい行動は僕を癒した。
後、そんなことになるとは知らない僕は、その本読みたさに彼に声を掛けた。
すると、彼はその本を手渡してくれた。
その後からだろうか?
僕らは、段々と仲良くなっていった。
いつかの夏休みには、祭りに一緒に行ったり、時に彼の家に行っては二人で遊んだりするようになった。
いつからか、周りから冷やかされるぐらいにはその関係は深まっていった。
きっと、当時からすれば好きな本のことや哲学的話、新選組の島田魁の話、東野圭吾の新刊発売に対する興奮、そんな会話は彼としか出来なかったからであろう。
そして大人びた彼は、僕から溢れた知性と予想の左を行くような発言や行動に惚れた。
そして僕は、彼の優しさと自分を苦しみから救ってくれた彼への感謝から、小6の頃にはまるで彼に忠誠を誓うかのようになっていた。
でも、僕らは付き合うことはなかった。
僕に、もう一人彼と同じぐらい大切な人がいたから。
そして何より、両片思いの関係が楽しくて仕方なかったからである。
僕のもう一人の大切な人は、彼と同様に僕を救った。そして、僕と同様に彼のことが好きだった。
(そんな大切な彼女の話は、また後日書かせて頂きます)
僕はこの関係を壊したくなかった。
何より、二人のことが好きだったから。
たとえ、その意味が違ったとしても…
僕らは今、3人別々の道を歩いている。
僕は中学からとある進学校に行き、彼は国際科の高校へ進んだそうだ。そして、彼女は、音楽科の高校に通い必死にピアノを弾いている。
そして、彼女の家にたまに集まっては小学校の頃のように三人で喋りふざけ、同性異性関係なく色んなことを語り合う。
あいつらとなら、もう小学生の頃とは違う趣味であろうと、性格であろうと楽しく堂々と語り合える。
僕は、そんな僕らが、その僕らの現在の関係が、大好きだ。