『時雨の記』読書感想文
こんばんは、水瀬綾乃です。
昨夜のつぶやき後、夜更かしして読み終えた『時雨の記』。
20年ぶりに再会した、50代の男性と40代の女性との静かな時が流れる、大人の恋のお話です。
詳しく感想を書くと、どうしてもネタバレになってしまいます。
未読の方で内容を知りたくない方は、どうぞスルーされて下さい。
以下、感想です。
多江は夫と死別して一人暮らしですが、壬生は妻子がいる身であるため、不倫の括りになってしまいますが、2人は最後までプラトニックな関係で、読んでいくうちに密かに応援したくなってしまいました。
毎日の電話であったり、海外出張中の手紙のやり取りなど、お互いを思いやる2人は微笑ましく、いざ会ってもポンポンと小気味よく続く会話のラリーも楽しげで、どこかゆとりを感じさせる逢瀬です。
壬生の妻は夫を大切に思っていないのか、その心情は描かれてはいませんが、自由奔放にお金を使うところなどは、もしかしたら私に構って…!という不器用な心の叫びだったのでしょうか?
彼女が素直に壬生と接していたら、彼もまた多江に安らぎを求めることは、なかったかもしれません。
終盤で、多江と妻が対峙する場面では、妻のあまりに無神経な言動に誰がどう見ても多江に軍配が上がる成り行きになってしまったのは妻が哀れでした。多江の凛とした態度により、立場は弱くても、壬生に対する愛情は多江の方が勝っていると妻でさえも認めざるを得なかったと思います。
壬生が望んでいた2人の終の住処は幻に終わってしまったけれど、後日、多江が壬生の友人から壬生から託されたその住まいの設計図を受け取ったシーンでは彼女にとって何よりの贈り物だと、読んでいて胸が熱くなりました。
その設計図があれば、これからいつまでも壬生と共に、2人の幸せな日々を空想して過ごすことができるのだから…。その思いは無敵です。
この本もまた時を置いて再読したくなる、処分できない一冊となってしまいましたが、素敵な作品に出合えてよかったです。