髪を切れない呪い

「僕はね、半年に一ぺん来てくれる君の髪の毛をバッサリ切るのが気持ちいいんだよ。」

そう言ってくれた美容師さんはもういない。


行きつけの理容室のいつもの担当さん。

女性はだいたいサロンとか美容室に行くけど、
私は理容室に髪を切りに行っていた。
いわば、床屋さん。

なんとなく、店内の雰囲気と
メリハリある雑談が心地よかった。


私にとって髪は、
あまり気を配る対象ではない。

ある程度身ぎれいにしていれば
一年放置していても全く問題はなかった。

髪は半年に一回カットする程度でいいのだ。

こうして何年も同じ長さを保っている。

伸ばしては切り、伸ばしては切り・・・
の繰り返し。


年齢を重ねるにつれ、周囲がうるさくなる。

「もっとケアしたら」
「オシャレなサロンとか行ったら」


確かに、定期的に通ってプロに整えてもらった方が
綺麗に保てるだろう。


でももう定着してしまった習慣だから仕方ない。
まだこのままでいい、私は。


担当の方が亡くなってからもずっと、私は半年経たないと
髪を切る気にならないのだ。

あの人がいなくなって以来、
いろいろな場所を転々としている。


仕上がりも、カットする手つきも、完了までにかかる時間も全部。
あの人に慣れてしまった。


半年に一ぺん、毎回違う人に髪をいじられているときは特に、

強く鮮明に元担当さんを思い出すのだ。


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黒龍 京子(Kurotatsu Kyoko)
最後まで読んで頂きありがとうございました!

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