『深海のYrr』 ふたたび +短歌
Yrr…イール
海洋サスペンス だけでは済まない…
強烈なインパクトを残したこの本を再読しました。今回は、恐怖と驚愕のストーリー展開に奪われた思考 から零れていた細部を拾いながら読むことができました。
因みに邦訳は2008年(原作2004年発表)発刊とあります。原作から二十年の月日が経っています。
初めて読んでから十年経ちます。人間は相変わらず 環境悪化を食い止められず、それどころか 温暖化は沸騰化へ、この夏の異常高温へ 突き進んでしまいました。八月 ヒマラヤの氷河湖が決壊し、洪水が発生しました。
今回 心に残った〈細部〉について
イヌイットの考え方
主人公の一人 レオン・アナワクは 自身のルーツ(イヌイットの一族という出自)に蓋をして生きていましたが、深海生物と対峙する その直前 父親の葬儀で会った伯父から、イヌイットの知恵と誇りを授かります。別れ際 鳥の精霊の木彫像を渡されます。
鳥 は、意識の象徴だと知らされます。
古代エジプトの絵画に 鳥の冠が描かれ インディアンの首長が羽飾りを身につける のは、それらが、精神を象徴しているからだ…と。
羽飾りは失ってはならない、自分の意識を失うことになるから。
伯父は また こうも言います。
『闘う相手が自然である以上 敵だと捉えれば
その瞬間 敗北する。人間と同じ自然の一部であると、捉えれば闘いようは あるかもしれない。
イヌイットの人生哲学に 時間という概念は無い。どのような計画も自然には歯がたたない。そこでは(叢氷やクレバスを移動しながら狩りをして暮らすイヌイット)、人は瞬間を生きるだけだ。次の瞬間のことは誰にも解らない。人は自然の持つ独特のリズムに服従する。何千年もの放浪の中で、イヌイットは自然に支配されることを学んだ。』
こう 言って アナワクを送りだします。
これまで 人生は時間だと 考えていたことを 根底から 揺さぶられました。現代文明に取り込まれ しかもそのことを忘れている と、突き付けられます。なんという傲慢な我身でしょうか。
二度 読んで また 違う衝撃にノックアウトされ 茫然としています。
………短歌……
どうすれば止められるのか解ってる
少し昔の暮しに戻る
その勇気足りない吾の脆い身を
恥じつつ歩く明日より今日を
写真は 『深海のYrr』1〜4
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