株式分割とは?基本的概念とその留意点
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本記事では、株式分割の基本的な概念から、実施を検討する場合に気をつけるべき点について解説します。
1. 株式分割は一種の新株発行
株式分割(会社法上は「株式の分割」ですが、以下、株式分割で統一します)とは、会社法183条以下で定められているもので、既存の株式を従来よりもさらに細分化することをいいます。例えば、1株を2株に、1株を10株にとするといった具合です。
分割というと、その言葉通り、株式が「割れる」イメージをもちますが、分割とは名ばかりで実態は株数が増加(発行済株式総数が増加)することです。見方を変えれば、いわば新株が発行されたかのような状態になるため、学問上は「特殊の新株発行」として整理されます。資金調達を伴う新株発行を「通常の新株発行」と整理されますが、株式分割はあくまで無償で行われるため、それとは異なる位置づけとされています。
株式分割による主な変化
保有株数
株式分割は、既存株主の持ち株数に応じて行われます。例えば、既存の株式1株に対して10株の比率(1:10)で株式分割を実施する場合、1株を持っている株主は10株に、5株もっている株主は50株というように持ち株数に応じて株数が増加します。
時価
株式分割は持ち株比率に応じて等しく実施されるので既存株主に実質的な経済的な影響はなく、株主利益の保護の必要性は相対的に低いとされています。株価100円の会社で1:10の比率で実施するとすれば、10株持っている株主は保有株数100株になります。また、1株あたりの価格は10円となりますが、保有総額は1,000円(=100株×10円)と株式分割前とで経済的な変化はしません。当然、会社の時価総額全体にも理論上変化はありません(詳細は後掲の図を参照)
配当金
仮に、前回の配当時の1株あたりの配当金額が分割後も同じであれば、受取配当金は増えることになります。
3. 株式分割は取締役会決議でできる
上記の通り、既存株主を保護する必要性が相対的に低いため、上場会社が株式分割を実施する場合は、株主総会での決議は不要で、取締役会で決議して実施することができます(183条2項)。
4. 株式併合は株式分割の逆
株式分割が既存の株式を増やすことであったのに対して、株式併合は、既存の数個の株式を合わせてそれよりも少数の株式にすることをいいます。2株を1株に、あるいは4株を1株にという具合です。
5. 株式分割を活用する目的は売買単位の調整
資金調達が伴わない株式分割を実施する目的は1株あたりの株価を小さくして、とりわけ個人投資家がその銘柄の株式を購入しやすくし、株式の流動性を高めることにあります。
例えば、1株2万円の株式を最低売買単位である100株を購入しようとすると単純計算で200万円が必要になります。これが、たとえば、1株2,000円になれば、最小単位が20万円ですむことになります。昨今、1株あたりの株価水準が相対的に高いとされる値がさ株の銘柄が株式分割を行っているのもこのような背景があると考えられます。
6. 株式分割を検討する場合に気をつけておきたいこと
最後に、株式分割の実施を検討する場合に特に気をつけておきたいことについて所見を述べておこうと思います。
まずは、株主管理コストについてです。株式分割を実施すると、とりわけ個人株主が増えやすいため、株主名簿管理人との契約内容にもよりますが、株主数に応じて業務委託料が決まる契約になっている場合、追加で株主管理コストを支払わなければならなくなります。
また、株主総会にかかるコスト増も予想されます。株主総会資料の電子提供制度によって招集通知がだいぶスリム化されたとはいえ、招集通知の部数は増えるのでその分の追加コストが発生します。また、株主総会の当日に現地に出席する株主も増える可能性があるため、前年の株主総会の会場よりも、もしかしたら広い会場をおさえる必要が生じ、そこで追加のコストが発生するかもしれません。
もうひとつは、株主権の行使要件との関係です。例えば、株主提案権なんかは、3万株(=議決権個数300個)を保有すれば、その保有要件を満たすことになります。株式分割により、1株あたりの株価が小さくなれば、3万株を取得する金額的なハードルが下がることになりますので、それだけ株主権行使のハードルが下がることになります。
<参考文献>
田中亘「会社法(第4版)」(東京大学出版会、2023年)
神田秀樹「会社法(第24版)」(弘文堂、2022年)
以上
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