3行日記(すきっ歯、慾、山吹の咲くころ)
十一月二十四日(金)、晴れ。
小雪、虹蔵不見、にじかくれてみえず
最近あったことを詰め合わせで。
高野川の流れのなかに、スニーカーがぽつんと片方だけ落ちていた。
犬の散歩のとき、飼い犬と同じ種類の犬を見かけると、嬉しくなる。犬も興奮気味だ。にじり寄る。鼻を合わせる。女の子ですか。何歳ですか。名前なんていうんですか。ありがとうございました。お礼を言って去る。
夜に神社を通る。狛犬の近くに人影が見える。猫おじさんだ。隣にもう一人いる。同じくらいの年嵩の女性。猫おばさん現る。猫おじさんはいつも帰りがけに誰かと電話をしているのだが、電話をしてるふりをしているのか、本当に誰かと話しているのかわからない。もしやあの女性は、電話の相手なのかもしれない。
書道をさせてもらった個性的な喫茶店の店主のおじさん。笑うとすきっ歯が覗く。すきっ歯の裏からむにゅっと押しつけられた舌の桃色の肉が盛りあがる。
たこ焼き屋ののぞき窓から店主の男性と話し込んでいたおじさん。いつも車輪がついた小さなころころの鞄を引いて、中には何かの医療器具が入っているのか、のびたチューブを鼻の孔に刺している。夜になると、駅近くのスーパーの前でたむろしている。最近見なくなったなあ。元気かな。
きょう仕事でもらったメールに、「慾2月」と書かれていた。おそらく「翌12月」の間違いだと思う。慾は欲と同じで、ほっする。ほしいと思う気持ち。ほしがる心。という意味らしいが、したごころのある「慾」のほうが、より剥き出しの欲望に見える。
ざっくりした予定で動く。日が明るいうちに電車に乗る。山吹が咲くころになったら……。何時になったら、何日になったら、ではなく。
白いバンの後ろのドアが大きく開けられ、そこに服を着たままのマネキンが、頭から突っ込まれていた。
鼻ずびずひ、咳ごほごほ、帰りよし。お薬よくばりセット。お薬慾張セット。
夜、八宝菜もどき、柿。チャックの散歩、市役所をかすめて、さらに西へ、商店街を通って帰宅。おかしをたくさんあげる。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?