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映画『八犬伝』のレビューを書いた!そして恥もかいた!

先日、映画「八犬伝」を劇場で見ました。
正直に言ってそれほど期待していなかったのですが、予想に反して真っ当な内容の話で、それなりに楽しく見ることができました。
ただ上映時間が3時間近くあって、やや疲れました。

この映画は、江戸時代の小説「南総里見八犬伝(以下八犬伝)」が書かれる様を、作者・滝沢馬琴の半生と「八犬伝」のダイジェストを映像にして織り込み、100巻以上からなる古典文学がいかにして書かれたか、というあらすじの長大なストーリーとなっています。

トレーラーや他の広告などを見ると、まるで「八犬伝」のダイジェストが主かのような印象を受ける作りとなっており、そういうのを期待して観た人はきっとがっかりしたのではないだろうか。
というのは、あくまで話の主軸は作者・滝沢馬琴の周辺の話になるので、言い方は悪いが絵的には地味なシーンが多くなる。
こちらの馬琴パートには、派手な殺陣やファンタジックなシーンは登場しない。あくまで江戸時代の町家が主な舞台となる。
脚本がどれだけ史実を元にしているかは不明ですが、馬琴の親しい友人として葛飾北斎が登場する。
この二人のやりとりがベースとなり話は進んでいく。だから、非常に言い方が悪いが、じじい二人の掛け合いがこの映画の背骨だ。この辺のやりとりに面白みを感じられないと、映画自体が退屈なものになるだろう。
なぜなら、本作の売りにしている(と思われる)八犬伝ダイジェストの派手なシーンの出来が、私にはいま一つに感じられたから。


じじい二人


※以下ネタバレを含んだ感想になるためご注意ください。









※ここでいう「八犬伝」とは、あくまで滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」のことです。映画原作にあたる、山田風太郎「八犬伝」のことは指していないので悪しからず。なぜ区別しなかったのかは、最後まで読めばわかります。


キャストは非常に豪華である。加えて、ダイジェストパートの映像は、舞台から背景から特殊効果から、見ていて相当お金がかかっているのが伝わってくる。邦画としてはクオリティが高い。だから、映像的に失敗というのでもない。
ただ、話の挟み方があんまりなのだ。
私は原作「八犬伝」の内容を知らないで観たのだが、話の起承くらいはまあまあ語られるのに対して、転結くらいになると、いよいよダイジェストですと言わんばかりの描き方で、最終的な魅力が伝わってこなかった。
終わりに近づくにつれて、単なる、冒険小説のテンプレートみたいな話の展開になっている。
きっと、八剣士の仲間たちには、それぞれ背負っているバックグラウンドがあり、その全員が揃うシーンなんかは相当熱いシーンなのだろうが、その殆どの八剣士のバックグラウンドはおろか、名前だって一度聞いたかどうかのキャラがその時点で半分くらいいる。
こうなったのは、純粋に尺の問題だと予想する。映画を見終えたあとに知ったことだが、106巻28年かけて完結させた話を、合わせて一時間程度のダイジェストに収めるなんてきっと無謀なのだ。
だからといって、ダイジェストパートの後半をみっちり描いて4時間を超えるような映画にする判断は、興行的になかなかできないだろうなとは思う。
真逆の判断として、ダイジェストなんかろくに無しで滝沢馬琴の半生のみで作れば、恐ろしく地味になるだろう。
個人的には、その方がいい映画になったんじゃないか、とも思うのだが、じゃあ劇場に行ってまで観たかときかれれば、よほど監督なり製作陣に興味でも湧かない限り行かないだろうなと、正直に思う。

この文章は、全て想像の中で、好き勝手書いている。
実際の企画がどのように始まったのかは知る由もない。
美麗な映像ありきの高予算映画として持ち上がったのか、創作の苦悩を描いた派手さはないが良質な脚本に、のちに劇中劇のシーンを織り込むことになったのか。
なんにせよ、出来上がったものを見ると残念さを感じる映画である。
それぞれのパートは決して悪くないだけに、映画の出来を勝手に悔やみたくなってしまう。

そしてもうひとつ見ていて湧き上がった感想を。
冒頭でも書いたが、これは「馬琴パート」派と「八犬伝パート」派に別れるだろうなと。
恐らく、どちらも含めて最高と感じる人は多くないんじゃないだろうか。でも、どちらかのパート(と当たり前に書いているが、別に劇中では特別分けられてはいない)だけなら面白かったよ!という人は結構いそうな気がする。
私は「馬琴パート」派です。
理由は上に書いた通り。
事実、一緒に見た友人は私とは違って「八犬伝パート」が面白いと言っていた。

ということは、ターゲットもどっち付かずになっている感も否めない。
若くてグッド・ルッキングな俳優が多い「八犬伝パート」に対して、役所広司と内野聖陽という中年俳優が、更にどんどんと歳を追って老け込んでいく「馬琴パート」である。
宣伝を見てイケメンパラダイスを期待して観た若い女子には、なかなかつらいものがあるのではないか。
逆に、あまり不満を書いてこなかったが、私のようなひねくれた観客からすれば、「八犬伝パート」のほうには、俳優たちの中には少しひどい演技も混じっているし、派手なシーンでメインキャラが大集合してたりすると、最近の仮面ライダーにしか見えなかったりもした。


つまるところ、そういう映画である。

なのだがしかし、物語の中盤、「東海道四谷怪談」の作者・鶴屋南北と滝沢馬琴が、舞台の奈落で押し問答するシーンの台詞はなかなかで、互いの創作論をぶつけ合う良いシーンである。

このシーンこそ、この映画の肝だと思っている。
だから、奈落での問答に馬琴がどう答えを出すのか、というのが即ち八犬伝をどう終わらせるのかということに繋がり、自然と本を書き上げた場面がクライマックスになる構成となっている。
これは見ていて盛り上がったし、その馬琴の答えに期待した。
そして、悲しいかな、その答えが「冒険小説のテンプレ」程度の描かれ方なのである。
とにかく、これだけが言いたかった。観たあとにずっと。
こんなチャチな話に30年費やしたの?なわけないよね、、、?
というのが、この映画の最終的な感想です。


以上で終わる予定でした。
しかし、書きながら情報を確かめるために公式サイトを見ると、そこで驚愕の事実を知りました。
なんと!?原作者に「山田風太郎」とあるではないですか!?
山田風太郎といえば、私くらいの世代だと漫画「バジリスク〜甲賀忍法帖〜」の原作小説の作家として認知しております。
さらによく見ると、"山田風太郎の八犬伝を映画化!"的なことがちゃんと目立つところに書かれている。
…。

ということは、この映画、がっつり原作あったんだ…
脚本がどうとか、散々書いちゃって、恥ずかしい…
しかし、すでに長いこと書いた後なので、そのまま公開します。
内容的には、そんなに的外れなことも書いてないと思いますので。
ただ自分が恥ずかしい思いをするだけですので。

でも真面目な話、仮にダイジェストの描写が原作小説に準拠しているとするならば、原作がどうかと思いますよ。


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