シェア
黒田研二
2023年6月30日 08:21
4.殺しのリズムに合わせて(12)5(承前)「まったく……早まったことをしたもんだな」 長崎は煙草をふかしながら、部下の黒川を横目で睨みつけた。 長髪で優男の黒川は完全に怯えきっている。「まあ、いい。むしろ、こちらにとっては都合がよかったかもしれないし」 小池が黒川の背中を叩く。「ああ、どうしよう? もうすぐサツが来ますよ。ああ……」 黒川は頭を抱えて唸った。「しかし、このまま放
2023年6月29日 09:17
4.殺しのリズムに合わせて(11)5(承前)『あんたの奥さんを誘拐した』 ……小池だ。 洋樹は下唇を強く噛んだ。 あいつら、なんのつもりで由利子を?『明日の午後八時までに三千万円用意しろ。警察にはいうな。連絡はまたあとでする』「おい。ちょっと待――」 洋樹が全部いい終わらないうちに、電話は一方的に切られた。 受話器を握りしめたまま、呆然と虚空を見上げる。 長崎め……なにを考えて
2023年6月28日 09:17
4.殺しのリズムに合わせて(10)4(承前) 壁のミミズ文字は瞳の兄である浩次に宛てて書かれたものだった。 ませこうじへ いもうとはあずかった まいにち3まんえん いつものじかん いつものばしょ かならずこい さもないといもうとのいのちはないとおもえ 洋樹はしばらくの間、うなだれていたが、しばらくしてむくりと起き上がると、壁に貼られた紙を引きはがし、びりびりに破った。「い
2023年6月27日 06:58
4.殺しのリズムに合わせて(9)4(承前) 洋樹は考えた。 中西のいうとおりだ。 解決策はただひとつ。 瞳を救うためには、警察に真実を話すしかない。 しかし――「はたして、瞳が納得するかどうか……」 そういって、かぶりを振る。「なぜです? 瞳ちゃんのお兄さんが行方不明になってから一週間以上経つんでしょう? そいつは妹を捨てて逃げたんですよ。かばったところで、なにも変わりません。い
2023年6月26日 07:08
4.殺しのリズムに合わせて(8)3(承前)「瞳さん!」 気を失い、小池の胸の中に倒れこんだ瞳を見て、由利子は喉が張り裂けんばかりの大声をあげた。「邪魔をするな」 小池が今度は由利子の口をハンカチで押さえる。「なにする……の……」 抵抗しようとしたが身体の自由が利かない。 由利子はそのまま前のめりに倒れた。4 ここ最近、洋樹の退社時刻は誰よりも早い。「お先に失礼するよ」
2023年6月25日 08:09
4.殺しのリズムに合わせて(7)3(承前) おじさんと寝る――今までそんなことを考えたことなんて一度もなかった。 軽いショックを覚える。 私はおじさんを愛している。 おじさんも私を愛しているといった。 でも、ふたりのその想いが肉体関係――今の瞳にはそれがとてもいやらしい言葉に思えた――に結びつくことはなかった。 それが不自然だとも感じなかった。 もしかして……愛じゃないのかも。
2023年6月23日 06:13
4.殺しのリズムに合わせて(5)2(承前) 晃はため息と共に受話器を置くと、電話ボックスを出た。「嫌われて当然だよな」 目の前のアパートを見上げながら呟く。「ごめんな、瞳」 アパートに背を向けると、彼はうなだれたまま、駅へと続く道を歩き始めた。3 どれだけ考えても、やはり納得がいかない。 由利子は唇を嚙みしめた。 洋樹は私を愛してくれている。 それはたぶん本当だ。 でも
2023年6月22日 23:02
4.殺しのリズムに合わせて(4)2(承前) 晃にはなんの罪もない。 晃は私のことを助けてくれた。 晃は仲の良いクラスメイトだ。 でも……。 瞳の心は重くなる。 でも、晃は長崎の息子。 私たちを苦しめる悪魔の息子なのだ。『実は俺、家出したんだ』 晃の嬉しそうな声が聞こえてくる。「家出? どうして?」 そう口にしたものの、もちろん見当はついていた。『あの夜、親父と大喧嘩をしち
2023年6月21日 23:40
4.殺しのリズムに合わせて(3)2(承前)「こうなったら最後の手段だな」 長崎は口元に笑みを浮かべていった。「間瀬瞳を誘拐する。この前は写真を落とすというへまをやって失敗に終わったが、今度こそあいつを人質にしてたんまりと金を頂くことにしよう」 瞳は洋樹に電話をかけようと受話器をつかんだが、結局ダイヤルを回すことができなかった。 もう、あの人に会ってはいけない。 受話器を戻すと、チン
2023年6月20日 09:05
4.殺しのリズムに合わせて(2)1(承前) だから……瞳は俺が守ってやらなければいけない。 洋樹は心に固くそう誓った。 ……瞳。 おまえを愛している。2 長崎典和は苛立っていた。 今日でもう三日間、金を受け取っていない。 一体、間瀬浩次はどこへ姿をくらましてしまったのだろう?「おい、電話だ! 電話をかけろ!」 部屋の隅で呑気に煙草をふかしていた小池に向かって怒鳴る。「ま
2023年6月19日 14:23
4.殺しのリズムに合わせて(1)1 八月某日。 気温三十度越えの暑苦しい毎日が続いている。 ここは地獄かと勘違いするほど蒸し暑い満員電車の中で、洋樹はじっと耐えていた。 汗がとめどなく噴き出す。 天井に取り付けられた扇風機など、なんの役にも立っていない。 あの大冒険から三日。 それまで平凡だった洋樹の人生は、一枚の写真を拾ったことによって大きく狂わされた。 今もその狂いは修正され
2023年6月18日 07:22
3.危険の海へと飛び込んだ!(17)6(承前) 午前三時半。 四人は汗まみれ、かつ傷だらけの身体で歩道を歩いていた。 誰もが黙りこんでいる。「……ねえ」 沈黙を破って、瞳が洋樹に話しかけた。「私……もうおじさんには会わないことにする」「なぜ?」 洋樹は瞳の顔を見た。 驚いたことに、瞳は泣いている。「君はこれからも長崎に狙われるはずだ。お兄さんだっていつ帰ってくるかわからない。
2023年6月17日 07:22
3.危険の海へと飛び込んだ!(16)6(承前)「こいつら、いつの間に逃げ出したんです?」 長崎の背後から小池が現れる。 彼は中西のこめかみに銃をつきつけていた。「母さん、早く逃げるんだ!」 中西が叫ぶ。 林の中で呆然と立ち尽くす瞳と美和の姿が見えた。「瞳! 俺たちにかまわず逃げろ!」 洋樹も喉が裂けんばかりの大声を出す。 だが、ふたりは動こうとしない。 相手は銃を持っている。
2023年6月16日 06:24
3.危険の海へと飛び込んだ!(15)6(承前) 倉庫の扉のすぐそばで息をひそめていた洋樹は、扉が開いて長崎が入ってきたことを確認するとすぐに腹を殴り、前のめりに倒れた彼の頬にナイフを押し当てた。 酒くさい。 相当、酔っぱらっているようだ。 こんな奴に負ける気はしなかった。 倒れた拍子に、長崎の胸ポケットから鍵の束がこぼれ落ちる。 洋樹はそれを素早く拾い上げ、瞳に放り投げた。「すぐに