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MAD LIFE 057

4.殺しのリズムに合わせて(12)

5(承前)

「まったく……早まったことをしたもんだな」
 長崎は煙草をふかしながら、部下の黒川を横目で睨みつけた。
 長髪で優男の黒川は完全に怯えきっている。
「まあ、いい。むしろ、こちらにとっては都合がよかったかもしれないし」
 小池が黒川の背中を叩く。
「ああ、どうしよう? もうすぐサツが来ますよ。ああ……」
 黒川は頭を抱えて唸った。
「しかし、このまま放っておくわけにもいかねえだろ?」
 長崎がため息をつきながら立ち上がる。
「で、そいつはいつ頃、発見されそうなんだ?」
「あの家にはあいつ以外、誰も住んでいません。おそらく明朝、部下の誰かがやってくるまでは大丈夫です」
「今夜のうちに処理すればいいってことか?」
「はい……」
 長崎は新しい煙草に火をつけ、窓から倉庫のほうを見た。
「いや、待てよ」
 にやりと笑っていう。
「いいことを思いついた」

「もしもし春日です」
『春日さん、僕です!』
 慌てた様子のその声は中西のものだった。
「どうした?」
 由利子と瞳を救出するための準備を整えながらきく。
『一体、どういうことなんです? 今、瞳ちゃんのアパートへ行ってみたら、中がめちゃくちゃになってるじゃないですか。また長崎に――』
「実をいうとな、俺の女房も連れ去られた」
 子供たちに聞こえぬよう小声で囁く。
『え……どうして?』
 中西が息を呑むのがわかった。
『なぜ、奥さんが?』
「俺にもわからん。身代金三千万円を要求された」
 テレビドラマみたいな台詞だな、とこんな事態だというのに、なぜか笑みがこぼれる。
『どうするんです?』
 中西の質問に、洋樹はほんの少しの間、答えるのをためらった。

(1985年10月8日執筆)

つづく


 


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