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MAD LIFE 052

4.殺しのリズムに合わせて(7)

3(承前)

 おじさんと寝る――今までそんなことを考えたことなんて一度もなかった。
 軽いショックを覚える。
 私はおじさんを愛している。
 おじさんも私を愛しているといった。
 でも、ふたりのその想いが肉体関係――今の瞳にはそれがとてもいやらしい言葉に思えた――に結びつくことはなかった。
 それが不自然だとも感じなかった。
 もしかして……愛じゃないのかも。
 激しい不安感にとらわれる。
 おじさんに抱きしめられたいとは思っている。
 現にキスもした。
 でも、それだけだ。
 それ以上のことを私は望んでいない。
 少なくとも私は。
 ……おじさんは?
 おじさんも同じなのだろうか?
 もし、そうだとしたら……。
「やっぱり、おじさんが愛しているのはあなたなんだと思います」
 瞳は力なく答えた。
「馬鹿ね」
 由利子が鼻を鳴らして笑う。
「野生的な愛だけが愛じゃないのよ」
 彼女はまるで瞳の心を見透かしているかのようにそういった。
「守る愛っていうものもあるんだから」
「守る愛?」
 瞳はあの大冒険の夜、洋樹が口にした言葉を思い出した。
 ――俺が君を守る。
「ああ……」
 顔を両手で覆う。
 瞳は混乱していた。
 そのときだ。
 部屋のドアが乱暴に開き、見覚えのある人物が現れた。
「早く逃げて!」
 瞳は由利子に叫んだ。
 由利子はなにがなにやら理解できず、その場に立ちつくしたままだった。
 男が土足のまま部屋に上がりこむ。
「助けて! 誰か!」
 瞳は大声を張りあげた。
 その男は小池だった。
 小池の手が瞳の顔に覆いかぶさる。
「あ……」
 瞳の意識は遠くなっていった。

(1985年10月3日執筆)

つづく

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