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MAD LIFE 047

4.殺しのリズムに合わせて(2)

1(承前)

 だから……瞳は俺が守ってやらなければいけない。
 洋樹は心に固くそう誓った。
 ……瞳。
 おまえを愛している。

 長崎典和は苛立っていた。
 今日でもう三日間、金を受け取っていない。
 一体、間瀬浩次はどこへ姿をくらましてしまったのだろう?
「おい、電話だ! 電話をかけろ!」
 部屋の隅で呑気に煙草をふかしていた小池に向かって怒鳴る。
「またですか? どうせ、あの瞳っていう女しか出やしませんってば」
 小池が面倒くさそうにいった。
「あいつが兄貴をかくまっているのかもしれねえ」
 長崎はそういいながら、テーブルの端をこんこんと叩く。
 機嫌が悪くなるとつい出てしまう癖だ。
「つべこべいわず電話をかけやがれ! 間瀬浩次は俺たちにとって、金の卵を産む鶏なんだ。絶対、手放すわけにはいかねえんだよ」
 小池はしぶしぶといった感じで黒電話に向かった。
 晃め……あいつがなにもかもぶち壊しやがった。
 下唇を強く噛む。
 息子に裏切られたことが悔しくて仕方ない。
「今、坊ちゃんはどうされてるんです?」
 ダイヤルを回しながら、小池が訊いた。
「あの日以来、家に帰ってねえよ。どこをほっつき歩いてるんだか」
 そう吐き捨て、煙草に火をつける。
「もしもし」
 小池が受話器に話しかけた。
「瞳さんだね。支払いが滞ってるんだけど、金はいつ持ってきてもらえるのかな?」
『何度いったらわかるの? お金はない。兄さんもいないから』
 瞳の声が漏れ聞こえてくる。
「兄貴がどこへ行ったか、知ってるんだろ?」
 その質問には答えず、通話は一方的に切られた。
 小池は舌打ちしながら、受話器を置く。
「まったく……気の強い女だぜ」

(1985年9月28日執筆)

つづく

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