2023 元旦
I wish you a happy New Year.
つきごとに
眺むる月ぞ
くまもなき
光を四方の海にうつして
私の分にそう書いてある。
誰もいないまだ暗い道を並んで歩く。
マスク越しで会話してるのに
新年ってだけで気持ちがうわずって
声が震える。
こういう時、
何となく空を見上げてしまうのは
なぜだろう。
無音の深夜の空は、周りに光がないせいか
深く濃く、
いつもは見えない星は降ってきそうにひしめいて、
金釦やシルバーのギザギザや
金星の色までもがくっきりと見える。
「星座早見表みたいだね」って
言ってから
何万年も前のヒカリだと思うと
途方もなく畏くなって
慌てて手を繋いだ。
段々と近づくにつれて、
煙たい木材の焚かれた匂いが強くなる。
「やっぱり神社からだね」
その言葉に夫が頷く。
カーブの道がちょうど開けたら
夏祭りの蛍光ピンクや緑の
カラフルな提灯が明るく照らして
盆踊りみたいに囲まれている。
雅楽のテープのBGMも流れてきたら
そこからキリトリ線があるみたいに
さっきまでの静寂とは別世界になった。
どこからともなく
人々が集まって
夜光虫に似ている。
燃える焚き木のオレンジの熱で顔が熱い。
火の粉は赤く光を放つ螢に似た
生きもののように不思議に
舞い上がって落ちてくすぶって消える。
そんなのを見ているうちに年が明けた。
15歳のお婆ちゃんに
ムリはさせられないから、
海老の天ぷらのころもみたいに
着膨れさせた黒いぬさんを
さらにキルティングコートの中で
抱き抱えた。
御参りの列を待ってそろそろと
砂利道を歩く。
こうやってふたりと一匹で
御参りに来られるのが嬉しい。
黒いぬさんの震えが止まった頃に
御参りの順番がきた。
夫とふたり並ぶ。
夫はいつになく長いこと手を合わせて
熱心に祈っている。
輪廻転生とか、神様とか
あまり信じないのに横顔が真剣で
そういう時を垣間見てしまって
ちょっとだけ俯いた。
御参りの帰りしなにお神籤を引く。
箱に手を入れて取りたいお神籤が
逃げそうになるけど
今年は諦めずに掴んだ。
気持ちがはやるのに
指がかじかんで上手く開けない。
どうしようもなくなっていたら
「かして」って
夫が取って開いてくれる。
下のほうが薄く破けて
私 五十番「大吉」
夫 十六番「大吉」
2023年揃って「大吉」って
燻されてお互い煙りくさいのも
同じ時代に生まれて
出会って、この人が私の伴侶なのも
同じものを食べて
生きていることも
隣で息を吸って吐いて
ぜんぶ、ぜんぶ、私が選んできた。
そして2023年も。
大吉ってきっとそういうこと。