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砂漠を抜け出したプログラマーが見たもの

 私が携わったプロジェクトは、金融機関の資金移動システムの開発だった。若き日の私は、プログラミング言語を武器に、論理的な思考を駆使して、このプロジェクトを成功させると意気込んでいた。

「キミのプログラムは辞書か?」

冗長なコードをエレガントに書き換えられたり、現実は甘くなかった。

当初はそれでも順調に進んでいたプロジェクトも、中盤以降は様々な問題に直面した。想定外のバグ、顧客からの度重なる要求変更、そしてチームメンバー間の意見対立。まるで砂漠を彷徨うように、出口の見えないソフトでハードな状況が続いた。

焦り、苛立ち、そして絶望。
私は、周囲を責め、自分自身を責め、心のバランスを崩しかけていた。

そんなある日、ふと、「てんびんをかついで鍋蓋を売る」近江商人の物語を思い出した。主人公は、鍋蓋を売ることに執着しすぎて、その価値を見失っていた。

 しかし、「鍋蓋を洗う」という行為を通して、その道具に対する感謝の気持ち、そして商売の本質に気づいた。

私は、自分のプロジェクトを見つめ直した。このシステムは、単なるコードやプログラムの集合体ではない。
顧客の業務を効率化し、社会に貢献するための、いわば「道具」なのだ。

私は、この道具を売ることにばかり気を取られ、その本質を見失っていたのではないか。

そこで、私はチームメンバーと改めて話し合い、顧客とのコミュニケーションを強化することにした。

彼らの声を聞き、彼らのために何が最善かを考え、システムを改善していく。その過程で、私は顧客との間に信頼関係を築き、プロジェクトは徐々に軌道に乗り始めた。

最終的に、私たちのプロジェクトは大きな成功を収めた。しかし、私にとって、このプロジェクトが教えてくれたのは、技術的なスキルよりも、むしろ人間関係の大切さ、そして顧客への共感の重要性だった。
「想像していない未来」は私の基本OS(オペレーティングシステム)となった。

近江商人が鍋蓋を売ることで伝えた教訓は、時代や場所を超えて、普遍的なものであると感じた。
それは、どんな仕事にも通じる、心のあり方なのではないだろうか。

今、私は、この経験を次の世代に伝えたいと思っている。
技術革新が日進月歩する時代だからこそ、忘れてはいけない大切なものがある。

それは、人間が持つ創造性、そして共感力だ。

私は、これからも、この経験を胸に、新たな挑戦を続けていきたい。


「近江商人」Wikipediaは下記リンク。


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