見出し画像

ショウタイムセブン感想 とにもかくにも阿部寛

ショウタイムセブンを鑑賞してきた。


午後7時。ラジオ番組に1本の電話。直後に発電所で爆破事件が起こる。電話をかけてきた謎の男から交渉人として指名されたのは、ラジオ局に左遷された国民的ニュース番組「ショウタイム7」の元人気キャスター・折本眞之輔。突如訪れた危機を番組への復帰チャンスと捉え、生放送中のスタジオに乗り込み、自らがキャスターとして犯人との生中継を強行する。しかし、そのスタジオにも、既にどこかに爆弾がセットされていたのだった。一歩でも出たら即爆破という中、二転三転しエスカレートする犯人の要求、そして周到に仕掛けられた思いもよらない「罠」の数々。その極限状態がリアルタイムに全国民に拡散されていく––!なぜ彼が指名されたのか?犯人の正体と本当の目的とは?すべてが明らかになるとき、折本が選ぶ予測不能の結末。あなたは《ラスト6分》に驚愕する。

公式HPより

〇阿部寛による阿部寛のための映画

筆者は「結婚出来ない」「アットホーム・ダッド」「TRICK」「海よりもまだ深く」「青い鳥」などなどと数々の阿部寛主演のドラマや映画を観てきた。しかし、これほどまでに阿部寛を前面に押し出してきた映画があっただろうか。
そう、この映画は阿部寛による阿部寛の映画だともいえる。
インタビューでキャスター役を避けていたというが、何を言うか、非常に個性豊かで魅力的なキャスターを演じていた。60の男とは思えないほど、まだまだ魅力あふれる人物だ。

映画は終始阿部寛演じるニュースキャスター折本眞之輔が(途中から)メインになる報道番組中心に進む。局以外の場面は、番組のレポーターが映る時くらいだ。局を離れた場面はほとんどない。
犯人側の視点はなく、番組最中に続けられる電話越しの犯人と折本眞之輔の緊迫感あふれる交渉が見どころ。
そのため、どうしても折本眞之輔こと阿部寛が中心にまわされる。だからこそ、阿部寛による阿部寛の映画という構図になっている。
と書いても、別に阿部寛ファンじゃないと楽しめないわけでもない。アイドルを主演に添えたホラー映画とは違う。
98分という割と短い尺の中で、ずっと緊迫感あふれる交渉は見ごたえありだ。
また、折本の大胆不敵で少々強引なさまも魅力の一つであるといえるだろう。映画冒頭から、ラジオにかかってきた脅迫電話からテレビのニュース番組復帰を目論むさまはまさに主人公の性格を表しているシーンである。
しかし、その強引さが映画を魅力的なものにし、また鑑賞者を引き込むための仕掛けにもなっていく。大胆不敵、強引でなければ冒頭でやりかけていた、当初から警察に電話して協力を仰ぐ展開になっていただろうから。そうなると、折本眞之輔というキャラが揺らいでしまう。

 

〇犯人側をどう描くべきだったのか?

しかし、映画レビューサイトを覗いていると、どうも評価が伸びない印象を受ける。
その理由は幾つかあるだろうだ。
まず考えられるのが、この作品は件の通りにニュースキャスター折本眞之輔が全面に押し出されている映画だ。それに対して、犯人は物語の後半までは姿を現さずずっと電話の声だけである。折本対犯人をもう少しクローズアップするならば、犯人側をもっと明確にする構図もあっただろう。そうした場合、犯人は折本とは対照的なキャラとして描くのがベターになる。大胆不敵で回りを強引に巻き込みながら突き進む折本に対し、冷静沈着で慎重、怜悧に一人で策略する犯人、といった構図だろうか。知性においては互いに譲らず、それゆえの駆け引きが描かれると面白かっただろう。なくはなかったが、もっと心理戦を描いてほしかったと思う人もいるのではないだろうか。
デスノートのキラとLの関係などが面白いだろう。そういう対比を描くと面白かったかもしれない。
だが、この作品はあくまで折本メインだ。折本を中心に回っている。となると、どうしたって犯人側の格を一段階下げなければならない。それゆえ、犯人側のキャラクター性というインパクトが下がらなければならない宿命があったのではないだろうか。

また、犯人側の背景を細かく描いていては、98分という尺を超えてしまうことになる。2時間以内に収まらないどころか、2時間半の作品になっていたかもしれない。
となると、この作品の魅力である緊迫感やテンポの良さが殺されることにもなる。どうしたって折本に全振りするしかない。
物語としての深みを意識すれば犯人側の描写も欲しかったところだが、致し方ないのかもしれない。

犯人側の動機や、発電所爆破という大胆で大規模な犯行に及ぶ際の手際の良さが不確定すぎるところも違和感につながっただろう。
発電所を爆破するという、それこそ折本に匹敵するほどの大胆不敵さを見せつけたかったのだろうか。とはいえ、爆破シーンはかなり地味なそれになっていたが。

ネタバレ回避のために犯行動機までは明確に書けないが、確かに筆者もこの辺が明かされる部分でトーンダウンを感じたことは否めない。
とにかく、違和感があるのだ。

以下、検証するために若干のネタバレ含む(遠回しに書くのであまり影響はないと思うが、純粋に観たいのならば注意)


--------------------


犯行の動機が私怨であるという部分がポイントになるだろう。
なぜ私怨がダメなのか。犯罪の大体が個人的恨みから発生されるのではないか。ジョーカーの犯行だって、結局は私怨ではないか、と思うだろう。確かにその通りなのだが、この事件において私怨で犯人が動くことに対してやはりどうしても違和感は残ってしまう。
ジョーカーの場合は、かなり行き当たりばったりでずさんな犯行であった。しかし、それ故にカリスマ性が秘められたようにも思える。
今回の犯人は、犯行に対してかなり計画的で下準備も丁寧にされているように見える。なにせ、発電所を爆破するのだから。
そう、発電所を爆破させたところにまず違和感が生じるのだ。
私怨で、そこまで大規模な、つまりはテロ行為とも呼べるような犯行に及べるのか。
いや、これが同じ恨みや屈辱を持った同志たちが集い犯行に及んだというならまだ説得力が生じただろう。なにせ、大規模なテロだ。それを単独で行ったというのは説得力に欠けやしないか。
もう一人協力者がいただろう、と言いたい人もいるだろうが、それは局内での犯行だ。というか、局内でもあれだけの仕掛けをするのに一人の人間がたやすくできたのだろうか? そこに、再度強い違和を感じてならない。
工業高校出身という点をつけていたが、それだけでは大規模爆破の知識を持っているという説得力は弱くないか。

こうした点が重なり合い、鑑賞者に違和感を与えてトーンダウンさせてしまった点があるのではないだろうか。
もし描くとなると、さらなるどんでん返しで個人的恨みでもなんでもなく、その犯行の結果別の利益が犯人にもたらされる、などの展開が欲しかったところか。
もしくは、素直にテロ組織での犯行であり、今回の犯人はリーダー的な存在で頭の切れる人間だったことにするとか。
もしくは、発電所爆破などの大規模な犯行はカットし、番組内での暴行に及ぶだけにするとか。それにしても、98分の緊迫シーンを作るためにはある程度の協力者や予めの仕掛けが必要になるが。突発的な犯行では98分どころか60分も怪しいのではないだろうか。やはり、発電所規模の爆破まで入らなかったのではないだろうか? 爆破の際の画的な演出もなかったし。


〇緊迫感とスピード感あふれる映画とみれば上々のデキ

何だかんだ作品内にあふれた違和感について触れたものの、筆者としては作品自体は上々の出来と評価している。
本作の最大の魅力は、ニュースキャスター折本の圧倒的な存在感とスピード感のある展開 にある。主人公のキャスターは、大胆不敵で強引な性格を持ち、事件をリードしようとする姿勢が印象的だ。彼が視聴者の目を意識しながらも、極限状態の中で追い詰められていく過程は見応えがある。サスペンスとしての緊張感やテンポは非常に優れており、最後まで息をつかせない展開が続いた。
また、急に始まる視聴者参加型アンケートも実に面白く取り入れられた印象がある。特に最後の演出はこのアンケートが効果的な役割をもたらしていたのではないだろうか。

映画のラストでは、「センセーショナルなニュースは一瞬で消費され、やがて忘れ去られる」というテーマが浮かび上がる。事件が解決し、ニュース番組は次の話題へと移り変わっていく——この描写はリアルであり、「報道のあり方」や「社会の記憶の儚さ」を示唆するメッセージとしては効果的だ。
しかし、それまでの犯人との攻防に比べるとやや唐突で、もう少し掘り下げがあれば、より強い印象を残せたかもしれない。

総評
『ショウタイムセブン』は、ニュースキャスターを主人公に据えたユニークな視点と、スピーディーな展開で観客を惹きつける作品だ。緊迫感のある演出や、キャスターのキャラクターは非常に魅力的で、サスペンスとしての出来は申し分ない。
しかし、犯人の動機と犯行のスケールが不釣り合いな点や、社会的なテーマとエンタメ性のバランスがやや崩れている点が惜しい。もし、犯人の計画にもう少し納得感を持たせる工夫があれば、より完成度の高い社会派サスペンスになっただろう。

 

○おまけ

女性キャスターがちょいちょい1人だけ冷めて「なんなの?」みたいな狼狽を見せてるシーンが盛り込まれてたけど、あれこそまさにテレビショーや政治ショーに対しての声でもありそうだよね。
派手に面白おかしく見せてたりするが、一部の人からすれば「こいつら何やってんだ?」と冷めた目で見てしまう。
テレビショーや政治ショーは、まさにそんなどうしようもない状況を時にははらんでしまいがちである。


いいなと思ったら応援しよう!

クロフネ3世
支援いただけるとより幅広いイベントなどを見聞できます、何卒、宜しくお願い致します。

この記事が参加している募集