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【大事なことほど先延ばしにする癖とどう戦うか? RICビジネス編#9】
市場が縮む中で同じことを続け、対症療法的な手をうち続けるのか。
それとも、リスクはあるが思い切って方針転換をするのか。
経営者には、顧客や社員、取引先など、いろんな人生を巻き込み左右する決断を迫られる瞬間があります。
そんなとき、冷静に淡々と決断できるか?
経営者だって人間です。弱い自分もいる。
重い判断から目を背けたくなり、枝葉末節の業務を増やして自分を忙しくしたり、ジリジリと先延ばしをしたりもします。
そういう決断の壁をどう乗り越えたらいいのか?
今回も私自身の経験をもとにお伝えします。
<ミドルステージとは>
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今回も前回に引き続きミドルステージの話です。
アーリーステージを経て、一定の資金投下と事業成長の方程式が確立しているはずです。事業をスケールさせるにあたって、最も効果的なお金の投下先もわかっているでしょう。
この時期に大事なのは、競争相手との間に堀(MOAT)を築くことです。MOAT(モート)とは、かんたんにはマネできない競争に優位な状態を作り上げることです。
そのために資金を投下すべきところが、KSF(キーサクセスファクター)と呼ばれ、成果を上げるためにリソースを注力すべき独自の重要なポイントです。
たとえば、他にはないデータの蓄積や人材の求心力、文化といったものが挙げられます。
ミドルステージにおいては、調達した資金を開発やマーケティングに投下することで、既存セグメントでの成長(ユーザー数や顧客単価)を加速させます。
マスへの展開や隣接セグメントへの展開は、このステージにおいて取り組むべきテーマ。
事業会社との資本提携を活かして事業を伸ばすこともできるようになり、CVCや事業会社が資金の出し手となることも増えます。
<競争優位性は、築けたけれど・・>
私自身の話をしましょう。
保育の事業をやる会社を育ててきて、ミドルステージに入った頃には独自の競争優位性(MOAT)を築いていました。
一つ挙げると、「RIC」という人の成長を促す考え方です。
子どもの成長に必要な段階を定義し、それを日々保育士が観察・記録し、保護者にもシェアされるという仕組みを構築していました。そこで蓄積したデータも独自性を生み出す源泉になっています。
おかげで、会社は順調に成長していきました。
ちなみに、「RIC」が誕生したきっかけは、会社の方針がわからなくなっていた時期に雇用していた複数の保育士に言われたことです。
「うちの教育方針ってなんですか?」「子ども達がどんな大人に成長したらいいと思っていますか?」と聞かれ、答えられず悩み、あれこれ調べ尽くし、自分の体験をベースに考え抜いて生まれたのです。
ただ、こうして「RIC」を作るうち、これは子どもだけでなく悩んでいるすべての人に役立つものだと思うようになりました。
私は「RIC」を独自に探求し広げようと決め、事業承継を決意します。
<決断の壁〜立ち位置がわからず悩む〜>
事業承継に当たって、最後の方にした仕事の一つが、信じて会社を託せる新しい体制づくりです。
付き合いが長く、実力も折り紙つきの面々数名に声をかけ役員になってもらいました。
企業専門の弁護士の方や、スタートアップを支援し上場まで導いた方、大手の役員の方といった顔ぶれです。
就任していただいてからは、毎月1回役員会を開き、会社を成長させる仕組みづくりに注力。売上も飛躍的に伸びていきました。
私としては、安心の布陣を敷いて完全に手を引こうというつもりでやっています。
しかし、外部から来てもらった役員は何か決定を下すことになるたびに、「あなたはどう思いますか」「どうすればいいと考えていますか」と聞かれるのです。
結局、私は会長職になり、新社長も当然いるので自分の立ち位置がわからなくなってしまいました。どのように権限や責任を取ればいいのか。悩まされました。
<本質的なことほど目を背けたくなる>
事業承継に限らず、このような場面はあるかと思います。
会社の中で自分の立ち位置がわからなくなったり、何をすべきなのかわからなくなったり。苦しいですよね。
でも、それだけなのか。
本当のところは、本質的に大事な問題を先延ばしにしているだけなのではないでしょうか?
少なくとも私はそうでした。
広く悩める人のために早くRICの探求をしなければとは常に思っていた。なのに、まず役員体制を整えてからだと動くうち、それが本当に大事なことかがわからなくなり、決断をずるずると先延ばしにしてしまいました。
学生の頃、面倒な課題にはなかなか手をつけず、部屋を片付けてばかりいたときとなんら変わりません。不安を紛らわせるために行動している状態です。
現状を変えるには、過去から未来のありたい姿への道筋を見通す力が必要です。
<現状を変える力=見通す力>
見通すには、まず振り返ることが必要です。
自分の過去を振り返り、これまでに乗り越えてきたことを思い返してみてください。
超えてきた壁は、最初から乗り越えられると思っていましたか?
始めは無理だと思っていた壁も乗り越えてきた。その記憶が今目の前にある逆境も乗り越えられるという自信になります。
その上で、今度は1人の人間として、2、3年後のありたい姿の解像度を上げてください。
現実的になりすぎず、夢や希望、価値観も織り交ぜて理想の未来の想像を膨らませてください。
自信と希望を持てれば、人は大事なことに取り組めます。
<まとめ>
本質的にやるべきことは、重い。
だから、わかっていても手をつけたくない時があります。
そんな時、状況を変えるには、見通す力が必要です。
まずは、過去に乗り越えてきたことを思い出し自信を取り戻す。
それから、どうしても辿り着きたい理想的な未来を描く。
ありたい姿が明確にあると、やるべきことが目の前に現れます。
階段を一段ずつ上がれば、心底見たいと望んでいた景色に辿り着ける。その期待が人に希望を抱かせ、一歩を踏み出させるのです。
参考記事