【楽天・田中将大投手の右ヒラメ筋損傷】オランダ徒手療法の黒田なら、こう考えて、こう施術する!
はじめに
今シーズン、大リーグのニューヨークヤンキースから、楽天ゴールデンイーグルスに8年ぶりに復帰した田中将大投手。
コロナで暗い世の中にひとつ明るいビックニュースが飛び込んできました!
久々のマー君フィーバー!。日本球界復帰戦はいつになるんだ?と多くのプロ野球ファンが胸を躍らせていました。
ところが、3/25の練習後に右ふくらはぎに軽い張りを訴え、病院で「右ヒラメ筋損傷」と診断されました。試合復帰まで3週間の見込み。
4/10に予定されていた復帰戦は見送られましたが、来る4/17に日本球界に復帰しました!結果は残念ながら敗戦投手になってしまいましたが、今後の活躍に期待ですね。
今回は無事に復帰できましたが、もし復帰が長引いていたら…、復帰しても再発しないように…という視点で誠に勝手ながら、『オランダ徒手療法』という立場でこの田中将大投手の「右ヒラメ筋損傷」の施術を行うとしたらどのように考えるか?をまとめてみようと思います。
情報不足は否めませんが、ネットで公開されている情報を集め、これまでの怪我の既往歴や経過などを踏まえながら施術プランを考えました。
過去、ゴルフ石川遼選手の腰痛についても考えてみたことがあります。
参考までに↓
では、長文になりますが、最後までお付き合いください。
これまでの怪我と経過
田中投手はこれまで様々な怪我をしてきています。
2010年:右太ももの肉離れ *短距離走中
右大胸筋部分断裂
2012年:腰痛 *フォーム改造が原因?
2014年:右肘の靭帯断裂
2015年:右手首の腱鞘炎と前腕部の炎症
2021年:右ヒラメ筋損傷 *試合復帰まで3週間の見込み
*田中将大選手の診察結果に関して
今回の右ヒラメ筋損傷の経過は、
・3/25の練習後に右ふくらはぎに軽い張りを訴え、病院で「右ヒラメ筋損傷」と診断された。
・復帰戦は4/10の予定だったが、一旦回避された。
・再度復帰戦が4/17日に決定し、復帰した!*受傷後〜3週間+3日目
田中投手のヒラメ筋損傷の程度は?
一般的に筋損傷は次の3つのグレードに分けられ、各修復期間は次の通りです。
Ⅰ度損傷(軽度):3〜5日
Ⅱ度損傷(中等度):2〜4週
Ⅲ度損傷(重度):4〜8週
つまり、今回試合復帰まで3週間の見込みとされているので、もし診断上組織の修復期間のみを考慮していれば、Ⅱ度損傷の可能性が高いです。
もしくは組織の修復期間+治療やトレーニングの期間を含めて3週間という判断をされていたら、Ⅰ度損傷の可能性が高いです。
いずれにしても、Ⅰ〜Ⅱ度損傷であることは間違えないでしょう。
ヒラメ筋損傷の一般的な治療やリハビリは?
一般的には、急性期、亜急性期、回復期に分けられて、時期に応じた治療やリハビリを行います。
★急性期
主にアイシングや患部の安静など、炎症や痛みのコントロールを行います。
★亜急性期
痛みが落ち着いてきてから、ストレッチや筋トレなどを開始します。
★回復期
スポーツ復帰に向けたトレーニングを行います。
参考↓
過去、ヒラメ筋損傷になったアスリートは多いようです。
2020年8月:福岡ソフトバンクホークス 今宮選手
2021年3月:イタリア1部セリエAボローニャ 冨安健洋選手
治療法が確立されておらず、再発や最悪のケースは引退に追い込まれることもある怪我だと書かれています。
田中投手はなぜ「右ヒラメ筋」を損傷したのか?
痛みや張りなどの症状が出る場合、いろんな原因が考えられます。
ただし、原理原則として「組織の抵抗力」vs「外部からの負荷量」の関係性を考えるとシンプルに原因を捉えられます。
ここでいう「組織の抵抗力」とは、
「外部からの負荷」=引っ張られたり、潰されたりなどの物理的な負荷に対して、組織が耐えられる強さと定義します。
そして、この天秤のバランスが崩れたときに組織にダメージが加わり痛みなどの症状が出てしまうのです。
この「抵抗力」と「負荷量」の天秤のバランスの崩れ方は次の3パターンあります。
①抵抗力は変わらないが、負荷量が上がる
②抵抗力が下がり、負荷量は変わらない
③抵抗力が下がり、負荷量も上がる
田中投手の場合にもこのいずれかのパターンに当てはまり、かつそれぞれ「抵抗力を下げる要因」、「負荷量を上げる要因」があったはずです。
考えられるのは、日米の違いです。
・マウンドの硬さ
・ボールの質感や重さ
・調整の仕方
・登板間隔など…
・住環境の変化
また、日本中のプロ野球ファンだけでなく、日本国民からの期待なども影響があったのかもしれません。
ただ、この「右ヒラメ筋損傷」を受傷してしまった原因はあまり深掘りしません。その理由は結局なってしまった原因よりも治していくときに「治癒を阻害する要因」にしっかりと対処することの方が極めて重要だからです。
オランダ徒手療法では、「なってしまった原因」よりも「治りを悪くしている原因」への対処を重要視します。
さて、ここからは田中投手の「右ヒラメ筋損傷」をどう考え、どう施術するのか?という部分に触れていきます。
気になるのは過去の右太もも肉離れと腰痛
2010年、2012年と田中投手は右太ももの肉離れと腰痛になっています。
2010年の右太ももの肉離れは診断によると「右大腿二頭筋挫傷」
一方で、2012年の腰痛については明確な部位の記載はなかったが、フォーム改造が一つの原因として考えられます。
そしてどのようにフォームを改造しようしていたかというと、「タメを作る」フォーム。ただし、キャンプの途中で断念したようでした。
「タメを作る」ということであれば、右足一本で立ったときにしっかりと軸足にタメを作るというのが容易にイメージできます。
これは想像ですが、右足で一本で立ったときにやや右の膝を内側に絞ることで、その後のリリースの際の爆発的な捩れが解ける力を使うことが出来ます。
このとき、動作的に腰のどこに負荷がかかりやすいか考えると、右の「下位腰椎」や「仙腸関節」と想像できます。
特に左足を前にステップしようとするときには瞬間的ではありますが回旋や側屈のストレスが加わる可能性が高いです。
瞬間的ではありますが、これまでと違ったフォームに挑戦しているので今まで負荷がかかっていなかった部位に負荷がかかると痛みや張りに簡単に繋がります。
右太ももの肉離れが腰痛を引き起こした⁉︎さらに、今回の右ヒラメ筋損傷も?
ここからはオランダ徒手療法独特の「神経生理学的視点」から右太ももの肉離れと腰痛の関係性を考えていきます。
人間の体を動かす筋肉、また痛みやどのような動きをしているのか?を脳に伝えるのは全て「神経」がその役割を担っています。
筋肉を動かすのが、「運動神経」
痛みや関節の動きを感知するのが、「感覚神経」
もう一つ、血液の循環を司るのが、「自律神経」です。
この3つの神経が主に人間の動きの調整に関わっています。ひとつずつ解説したいと思います。
①運動神経
運動神経は筋肉を動かす神経ですが、背骨から出た神経が特定の筋肉を動かすように指令を出します。
今回は右ヒラメ筋損傷で足の怪我なので、腰骨と足の筋肉の関係性を示します。
L1(腰椎1番) ー 腸腰筋
L2(腰椎2番) ー 股関節内転筋
L3(腰椎3番) ー 大腿四頭筋
L4(腰椎4番) ー 前脛骨筋
L5(腰椎5番) ー 中臀筋、長母趾伸筋
S1(仙椎1番) ー 大臀筋、長母趾屈筋、下腿三頭筋、ハムストリングス(一部S2と書かれていることも)
田中投手の場合は右太ももの肉離れの既往歴があり、その後腰痛になっています。
太もも=ハムストリングスなので、神経支配はS1。
腰痛も下位の腰椎のL5やS1付近で起こったという予想が立てられるので、ここで少し繋がってきます。
②感覚神経
痛みや触った感じ、温度、関節がどのように動いたか?などの様々な感覚を脳に伝える神経です。
主に皮膚で感じた感覚は「デルマトーム」と呼ばれる分布です。
デルマトーム
例えば、足の親指に痛みがあったとすると、一旦L4の脊髄にその痛み情報が入ってから脳に伝わっていきます。
L4の脊髄に情報が入ってから脳に痛みの感覚が伝わるので、脳は足の親指=L4の場所で痛みがあったんだなぁとわかるのです。
皮膚と同じように、骨にも感覚神経の分布があります。これを「スクレロトーム(=骨膜の分節)」と言います。
スクレロトーム
骨折が起こったり、靭帯など骨に付着する組織になんらかの痛みが生じた場合にはこのスクレロトームでどの領域に痛み刺激が入っているのかを分析します。
③自律神経
自律神経は血液循環を司る神経です。もちろん内臓などにも支配していますが、今回は運動と関連が少ない部分は割愛します。
自律神経も実は支配する領域が決まっています。ただし、先程の運動神経や感覚神経と分布がずれます。これはオランダ徒手療法独特の理論なので、すぐに理解するのは難しいと思います。
運動/感覚神経 ー 自律神経
L1(腰椎1番) ー Th10(胸椎10番)
L2(腰椎2番) ー Th11(胸椎11番)
L3(腰椎3番) ー Th12(胸椎12番)
L4(腰椎4番) ー L1(腰椎1番)
L5(腰椎5番) ー L2(腰椎2番)
S1(仙椎1番) ー L3(腰椎3番)
さらに、神経生理学視点では
・運動神経ー感覚神経ー自律神経は相互に関連し合う
・四肢と脊柱は関連しあう
などの法則があります。
少し基礎理論が複雑なのですが、それを繋ぎ合わせるとこのような流れで田中投手が右ヒラメ筋損傷に至ったストーリーを作ることができます。
右太もも(ハムストリングス)の肉離れ = 神経支配S1
→その影響で右の下位腰椎や仙腸関節の硬さが出る = 神経支配L5やS1(脊柱と四肢の関係)
→フォーム改造を試みた結果、硬さがある右の下位腰椎や仙腸関節に負担がかかり腰痛発症!
→この時すでに慢性なので特にS1領域の血液循環を司るL3の自律神経も機能が低下している(運動神経ー感覚神経ー自律神経は相互に関連)
=S1領域全ての筋肉や関節周りの組織が萎縮したり、癒着したりなどの状態になっている。(股関節周りや足首・足部まわり、腓腹筋、ヒラメ筋など全て)
→右腰部〜右下肢の機能低下を代償することで上半身に負担がかかり肘や前腕の炎症につながる
→日本球界復帰し、様々な環境変化により元々から萎縮や癒着していた右ヒラメ筋への負荷が高まり今回の「右ヒラメ筋損傷」に至る!
…と、僕であればストーリーを作ります。
ですが、詳細に問診を行ったり、正確な情報ではないので勝手な妄想の可能性は大です。
しかし、このような思考過程の中で患者さんや選手が怪我や痛みに至ったストーリーを作っていくのがオランダ徒手療法の特徴です。
このストーリーを元に治療をしていきます。治療した結果、治りが思わしくなければ、別のストーリーがあるはずなのでそれをまた考えて、そのストーリーに合わせた治療を行うだけです。
僕は腰痛専門なので、どうしても腰痛と関連づけたくなっちゃうんですけどね💦
さて、若干脱線しましたが、このストーリーを元にどのような施術プランを立てるのか?について次の章では紹介します。
では、どう施術するか?
施術の主に次の3つの方針をもとに行っていきます。
①局所=右ヒラメ筋などを含めた右ふくらはぎ
②脊柱=S1・仙腸関節とL3
③右下肢のS1領域で硬くなっている関節や組織
それぞれの目的と施術のポイントなどを紹介します。
①局所=右ヒラメ筋などを含めた右ふくらはぎ
ここでは右ヒラメ筋を含めた右ふくらはぎをしっかりと緩めることを目的とします。
ただし、単純にストレッチやマッサージで緩めるだけではおそらくまた再発してしまうでしょう。ここでいう緩めるとは、組織同士の滑りを良くするという意味です。
写真のようにふくらはぎの筋肉は筋肉同士が表層から重なり合っています。
ヒラメ筋の表層には腓腹筋があり、深層には後脛骨筋などがある脛骨・腓骨などの骨にも付着しています。
さらに、ヒラメ筋と腓腹筋はアキレス腱にも合流していきます。
ヒラメ筋が付着したり、接している全ての組織からヒラメ筋を独立させたいのです。
そうすることによって、ヒラメ筋にかかる負荷を最小限にすることが出来ます。
このヒラメ筋を接している全ての組織から独立させるには、組織同士の滑走を良くするリリーステクニックを用います。
こちらの動画は日本オランダ徒手療法協会のYoutubeで公開されている動画です。脊柱起立筋ですが、このようなイメージでリリースをしていきます。
②脊柱=S1・仙腸関節とL3
過去の右太もも肉離れや今回の右ヒラメ筋損傷では神経支配がS1となります。
さらに右太もも肉離れや腰痛などもかなり昔のもので慢性なので、S1領域の自律神経支配を司るL3も機能が低下しています。
なので、脊柱のS1やL3もしっかりと緩めていきます。
関節であれば、モビライゼーションやマニュプレーション。
同じS1、L3の同じレベルの脊柱起立筋、その表層の皮膚や筋膜などもしっかりとリリーステクニックで緩めていきます。
この動画は背骨の硬い分節を見つけるための評価法です。
本当に関節の硬さがある分節だと、骨同士がカツンと当たるような硬い感触になります。
③右下肢のS1領域で硬くなっている関節や組織
L3の自律神経の機能が悪くなると、S1領域の全ての軟部組織が硬くなります。
下のスクレロトームでS1領域になっており、そこに付着している組織は硬くなってしまうのです。
その結果、関節のアライメントも変化してしまいます。その調整を行う必要があります。
具体的にスクレロトームを元にどこが硬くなるかを確認してみます。
・仙腸関節
・大腿骨の大転子部〜骨幹の中央部
・脛骨の外側後面
・腓骨中央〜遠位
・足関節前後面の外側
・足根部の中央
ここがS1領域になるので、ここに付着する全ての組織は硬くなっています。
ハムストリングスや下腿の腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋などの筋肉もですし、関節だと仙腸関節、足関節、距骨下関節、足根間関節などです。
これらの組織を全てリリースしたり、モビライゼーション、マニュプレーションを行い、関節の柔軟性を取り戻したり、アライメントの調整を行います。
下の動画は足関節のモビライゼーションです。
関節のスペースを作りながら関節の凹凸の法則に基づいて動かしていきます。
おわりに
今回、誠に勝手ながら田中投手の「右ヒラメ筋損傷」についてどう考え、どう施術するか?というテーマでブログを書いてみました。
実際に問診をしっかりと行うと、今回僕が立てたストーリーは全くの的外れかもしれません。
ですが、限られた情報からでもこれだけの施術プランを考えられることはご覧になっている方に伝えられたかと思います。
今回の施術プランは神経生理学的視点がメインでしたが、他にも心理社会的要因からの視点、運動連鎖的視点など様々な見方があります。
どれかの見方に偏るのではなく、ある視点からの施術プランで改善できなかったときに、別の視点からの施術プランをやってみるということがとても大事です。
また、今回は全く触れませんでしたが施術を行った後は徐々に復帰に向けたトレーニングも非常に大事になってきます。
今回の記事がなかなか治らない痛みや怪我に悩んでいる患者さんや選手、またその治療を行っている治療家の方の参考に少しでもなれば嬉しく思います。
2021/04/20 黒田雄太
【注意!】腰痛に悩んでいるピッチャー以外は絶対に見ないでください。
★日本オランダ徒手療法協会
★DMTマニュプレーションスクール
<著者情報>
黒田 雄太(くろだ ゆうた)
長崎県長崎市在住 (2021年11月現在)
腰痛専門パーソナル・リセット代表
https://reset-youtuu.com
〜保有資格〜
・理学療法士(国家資格)
・【JADMT公認】オランダ徒手療法士
・DMTマニュプレーションスクール四肢コース/脊柱・骨盤帯コース認定インストラクター
・FRP(ファンクショナルローラーピラティス)ベーシックインストラクター
運動器疾患(腰や首、肩、膝などの不調)のリハビリテーション、徒手療法(マニュアルセラピー)が専門。
〜メディア出演〜
・はぴぷれ(ラジオ:2021年4月)
https://happypresent.voice-japan.com/2724