届けたい人は誰ですか?〜本のひととき〜
「海岸通りポストカードカフェ」吉野万理子
前回紹介した、ひきたよしあき氏の本と並行して読んでいた。すると「文字を書く」という点でリンクした。
初めて読む著者。図書館でタイトル借り。「ポストカード」に「カフェ」。私の好きなものだ。
横浜・海岸通りにあるポストカードカフェ。万国橋の近くだという。
著者は神奈川県出身。私も神奈川県民なので、カフェの場所や老舗の店名を容易にイメージできた。あの辺り、なんだろうな。
店内にびっしりとディスプレイされたポストカードは売り物ではない。誰かが誰かに宛てたものだ。 それは永久保存され、原則として持出し禁止。たとえ自分が書いたり受け取ったものでも持ち帰れない。
カフェのマスターを始め、そこに集う人々の物語が連作短篇で収められている。店では見せない裏側の人生とか、隠された気持ちとか軽くない内容も多い。でもポストカードで始まる物語に引き込まれていった。ポストカードの存在についても考えてみた。
私は手紙を書くことが好きだけど、いつしか封書から離れ、ポストカードが主流になった。
書くほうも受け取るほうも気軽だから。そんな理由だと思う。
けれど結構難しいのだ。限られたスペースに自分の気持ちを込めることが。格式ばったり、当たり障りのない文言になり「こんなこと書きたいんじゃない…」と頭をかきむしることもしばしば。
言葉にしなければ伝わらない。あなたに気持ちを届けたい
作中の言葉だ。
綴らなければ届かない
以心伝心という言葉はあるけれど、残念ながらテレパシーは使えない。
文字だけのコミュニケーションは、書き手と読み手の思いがすれ違うこともあるだろう。
だから、きっかけになればいい。
一呼吸置いて、素直な気持ちを綴ればいい。
届けたい人がいるなら今だ。
読み終えて、そう思った。