たったひとりの、かけがえのない人が〜本のひととき〜
「カフーを待ちわびて」原田マハ
『ラブストーリー』という言葉がぴったりと合った。
ページをめくると目の前に沖縄の小さな島の景色が広がる。
白い砂浜、青い海、さんさんと注ぐ陽射し…。まるで楽園を思わせるような中で、物語は始まる。
きっかけは絵馬だった。旅先で友人にけしかけられて書いた絵馬。
嫁に来ないか。幸せにします
まるでプロポーズ!それに自分の住まいと名前を書いたのだ。
与那喜島 友寄明青
ある日1通の手紙が届く。
私をあなたのお嫁さんにしてくださいますか
「幸(さち)」と名前が書かれた手紙。どこの誰かもわからない。いたずらかもしれない。戸惑いの中にほのかな期待が生まれる。
祖母から継いだ雑貨店を細々と営んできた単調な暮らしに、風が吹いた。
カフーとは島の方言で「いい報せ、幸せ」という意味だそう。
明青は心のどこかで、それを待っていたのかもしれない。
幸との出会いは『まるで光に包まれている、不思議な物体との遭遇のようだった』と書かれている。
美しいけれどミステリアスな女性。おしとやかなのかお転婆なのか、くるくると変わる表情がとても魅力的だ。
そんな幸と一緒に過ごすうちに、明青の感情が高まってくる。物語が進むごとにそれを実感する。気持ちを掻き乱さないでくれと願いながら、幸の存在は大きくなり、明青の中でかけがえのないものになっていく。
二人の距離がもどかしかった。
名前も呼べない。近づきたいのに勇気が出ない。ジワジワ来る気持ちに寄り添いながら夢中でページをめくった。
タイトルの「待ちわびる」にはせつない響きがある。
すぐには来ない。だから待っている。時折待つことに挫けそうになる…。 自分からは動けず、ただ向こうから来てくれるのを待ち続ける。
でも駄目なのだ。
幸せは待っているだけでは来ない。
自分から出かけていかないと見つからない。
ユタであるおばあの遺言に、明青も幸も動かされる。
2人がどうなったのか、はっきりとは描かれていない。でも信じられた。明るい未来の景色が。
カフー アラシミソーリ(幸せで ありますように)
私も、そう願っている。
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