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【詩】這い寄る過去


背を丸めてうつむいて歩く私の背後で

咲き誇る数え切れない笑顔たちがあげる声が聞こえる。



夕暮れの茜色と紺色が混ざった土手を

片手に枯れかけたヒヤシンスを抱えて

何も考えることなく足を交互に運んでいく。



生を謳歌する戯れ合う二匹のトンボが

なんとも言えず目障りで

腕を振りかざして地べたに落とそうとしたけど

緩く固められた拳は虚しく空を切った。




そんな無様な私の姿を

よりいっそう嘲笑う

暗緑色をした粘質の思い出から蘇る亡霊達。




このまま6畳間に帰り

独り枕に頭を埋めて

この世の終わりまで貪り眠りたい。



だけど分かっている。

忌まわしい思い出は一時も私を解放することもなく

ひたすらに私の心を蝕みつづける。



思い出から私を笑う彼ら彼女らなんて

いないことも頭の中では理解している。

だけど私は

虚栄心と傲慢さと臆病さから

手前勝手に忌まわしいと信じた記憶から

嘲笑の死神達を召喚する。




ただ眠りたい

ただ眠りたい

ただ眠りたい

永遠に眠りたい。



でも分かっている。

過去から私が復活させた情念は

私に眠ることを許さない。



今日もまっくらの部屋で

粘質の闇に囲まれながら

怯えながら憤りながら

虚しさに身を浸しながら

悲しみに暮れながら

私の創造した

信じた

漆黒の幻影と向き合うのだ。



朝日が細くカーテン越しにさしてくる時まで

私の頭が疲れ果て

思考を放棄することで気を失うように眠る時まで。






悔しい。

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