【詩】果てたる思い出
死を恐れずとも
己の定かならぬ死後の行く末に
不安を抱くことがなくとも
その自我の人生において
心の内において産まれた思い出たちが
霧散することについて
耐えられない程の哀愁を感じることがある。
世界のある一領域で起きたことが
その人にとって忘れがたい事象となり
特別な意味が与えられ
心の内で独特な価値を持つもの
思い出。
それも私が
死とされる事象を迎える時がくれば
人知れず意味を失い
無かったものとなるだろう。
創世から終焉まで
なんと多くの思い出たちが
消えていったことだろう。
その人にとっては
かけがえのない思い出
忘れがたい思い出
永遠に語り継いでいきたい思い出。
人の願い虚しく
あらゆる思い出は
死と共に空に散じた。
なによりも
思い出を永遠たらしめたい
永久に価値あるものとしていたい
そんな儚いが切なる願いすらも
消えていく。
思い出は
人とともい産まれて
刹那の間に輝きを放ち
瞬く間に消え、痕跡も残らず
二度と蘇らないようなものなのだろうか。
きっとそのようなものだと思う。
だが、その思い出となった事象が起きた結果、結ばれた因縁は
世界に張り巡らされた、無数の因果の糸と結ばれて
未来の因縁を紡ぎだすことだろう。
思い出を胸に生きた人間の行いは
眠っていた運命を呼び覚まし
新しい縁が産声をあげる。
その人が起こした影響は
どんなに小さな事でも
世界に波動のごとく広がっていき
やがて全宇宙に響く。
思い出の源となった行いも
すべての運命のうねりの一部となり
思い出への願いも
人を通して世界を動かす。
思い出とは果てたるもの。
それはもう十分「成した」のだ。
心置きなく
死と共に空に還ればいい。
人の願いと共に。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?