もし小学校の教師が名著「もしドラ」を読んだら
「もしドラ」は僕が紹介するまでもないほどの名著です。発売されて10年以上が経ちますが、未だに「もしドラ」の愛称で多くの人の記憶に残っています。累計200万部を超え、映画化もされました。
本書には、「経営学の父」と呼ばれるピーター・ドラッカーによる、「組織の生産を高める教え」が詰まっています。「経営学」「マネジメント」と聞くと、一見難しそうですが、本書ではその難しそうな教えを、野球部のマネージャーが分かりやすい言葉に咀嚼して教えてくれます。
僕は、今になって初めて「もしドラ」を読みました。そして、「もっと早く読んでおくべきだった!」と後悔しました…
それは、「学級担任」という役割は、まさにドラッカーの言う「組織のマネージャー」に他ならなかったからです。教師は、「クラス」という社会の縮図のような組織を管理するマネージャーです。ですから、本書はビジネスマンでも、経営者でも、野球部の女子マネージャーでもなく、教師こそ読むべき良書だったのです。
今回は、僕の心にズバズバと心に突き刺さったドラッガーの教えを、学級担任なりに咀嚼してまとめました。教師目線のたとえばかりですが、どの組織にも当てはまる大切な教えが詰まっています。参考になれば嬉しいです。
マネージャーに必要な資質「真摯さ」
人を管理する能力、それだけでは十分ではない。根本的な資質が必要である。真摯さである。
組織を管理するマネージャーとして、「真摯さ」ほど重要な資質はない、というのはとても共感できます。
どんなに仕事ができても、すごい能力をもっていても、仕事に対する真摯さが足りなければうまくいきません。「真摯さ」を失ったとき、傲慢な態度を取ったり、困難なことから逃げたり屈したりしてしまうからです。自分がその仕事にどれだけ誠実であるか、真摯に取り組めているかを、マネージャーは時々振り返ってみることが必要です。
「もしドラ」でも最初に引用された言葉です。それほど根本的に大切な資質と言えるでしょう。
組織の定義づけ「われわれの事業は何か」
あらゆる組織において共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには「われわれの事業は何か。何であるべきか」を定義することが不可欠である。
つまり、組織を定義づけることが不可欠であるということです。そこで「クラス」とはどういう組織で、何をするべきか、を考えてみました。その際、ドラッガーは次のように述べています。
出発点は顧客である。顧客によって事業は定義される。したがって「顧客は誰か」との問いこそ、個々の企業を定義するうえでもっとも重要な問いである。
その顧客とは、「組織に関わるすべての人」を指すのだそう。そうすると、「クラス」という組織の顧客は、子どもたち、教師、保護者、そしてクラスに関わるすべての人を指すことになります。
その顧客が求めているものとは何か。そこからクラスという組織の定義と目標が見えてきます。では、「クラス」という組織を順に定義づけしてみます。
顧客は誰か
→子どもたち、保護者、教師、そのクラスに関わるすべての人。
それら顧客が求めているもの
→子どもたちの成長、その先にある未来への安心
クラスという組織の定義
→子どもを成長させ、日本や世界中の未来を明るくするための組織
クラスという組織の目標
→子どもたちが楽しく学んで成長すること
こうして組織を定義づけすると、自分がやるべきことがとてもシンプルに見えてきます。子どもたちは顧客でありながら、組織の中で働く人でもあります。教師は、この組織のマネージャーとなって、真摯に管理をしていくことになります。
マーケティング「顧客は何を買いたいか」
真のマーケティングは顧客からスタートする。「われわれは何を売りたいかではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」と言う。
これも非常に納得できます。学級も同じですね。
「教師が何を教えたいか」ではなく、顧客が何を求めているか、を知る。子どもたち、保護者という顧客が「価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」というものを調査することからマネジメントをスタートする必要があります。
教師は教科書に詰め込まれたものを教えることが、ある意味義務のであるかのように思ってしまいがちです。しかし、重要なのは顧客にとって本当に必要なもの、求めているものを与えることです。顧客のニーズに合わせて柔軟に変化できる能力も必要です。
ドラッカーは次のように続けています。
消費者運動が企業に要求しているものこそ、まさにマーケティングである。それは企業に対し、顧客の要求、現実、価値からスタートせよと要求する。消費者運動はマーケティングにとって恥である。
消費者運動とは、消費者が企業に製品やサービスの改良を求めて働きかける不買運動やボイコットのことです。つまり、クラスで言うところの「授業をサボる」という行為にあたります。
教師は、「子どもたちが授業をサボる―つまりボイコットすることによって、内容の改善を求めていた」と捉えることができます。子どもたちがボイコットせず、思わず参加したくなるような魅力的な授業を作ることが求められます。それは、マーケティングなしにはできないことです。
組織の目的「人の強みを生産に結びつけること」
人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人が雇われるのは、強みのゆえであり、能力のゆえである。組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。
これは、どんな組織にも重要な考えです。人の強みを見つけ、その強みをどうしたら組織の生産に結びつけられるかを考えます。
人には「個性」があり、それぞれの強みも違います。適材適所。その強みが生かされる仕事や役割を与え、成果をあげていくことが大切です。
ドラッガーは「人は最大の資産である」と言います。なんとすばらしい思想でしょうか。心に刻み込みたい言葉です。
イノベーション「新しい満足を生み出すこと」
企業の第2の機能はイノベーション、すなわち新しい満足を生み出すことである。組織のなかでなく、組織に外にもたらす変化。イノベーションの尺度は、外の世界への影響である。
組織は常によりよい状態でいるために、イノベーションをし続ける必要があります。それは、組織のなかで起こるものではなく、組織の外に影響を与える変化で捉えていくことが大切です。
クラスで言うと、学級の中の変化ではなく学校全体、あるいは地域や社会全体に影響を与える人を育てる。1年では難しいですが、学校教育という広い視点で考えると、イノベーションによって顧客にとって新しい満足を生み出すことこそ、教育の役割に他ならないと言えるのではないでしょうか。
まとめ|強みを生かす→貢献→自己実現
この記事の最後もドラッカーの言葉を引用して終わりにしたいと思います。
人の強みを生産的なものにする。これが組織の目的である。組織とは、一人ひとりの人間に対して、何らかの貢献をさせ、自己実現させるための手段である。
この言葉こそ、まさに学級経営の基盤です。
強みを生かす→貢献→自己実現
この流れを作り出すことが、教師のマネージャーとしての役割なのでしょう。難しい言葉もたくさんありましたが、シンプルに、ここからスタートしていけば、大きくズレることはないと思いました。
ドラッガーの「マネジメント」は、ビジネス的なものではなく、学校や家族、小さなコミュニティ、サークルなど、あらゆる組織(グループ)に当てはまるものであると知りました。
僕はまだ「もしドラ」を読んだまでです。あの武骨な印象の本家「マネジメント」も気になりますが… 読み応えがかなりありそうなので、まだ躊躇しています^^;
本家ドラッカーの思想も、もっと学んでいきたいと思います。